◆「北朝鮮から来ました」と言えぬ苦しさ

この春、卒業を迎える予定だが、振り返ると大学生活は苦難の連続だった。授業についていくのが精いっぱい。同級生は年下。何よりも「カミングアウト」できないストレスに苦しんだ。「話しかけないでオーラ」を発しては自己嫌悪に陥る悪循環。「脱北者、北朝鮮から来ました」と素直にいえたらどれだけ楽だろうか。そう思うのだが、いざとなると、萎縮してしまった。

北朝鮮に生まれたことを恥じているわけではもちろんない。しかし日本に来た当初、「脱北者」と紹介されるたびに好奇な視線を浴び「何を食べていたの?」などと質問攻めにあうことも多かった。悪気はないのはわかっているが、北朝鮮の人間が「原始人やロボットであるかのような」印象をもたれているのではないかと辛かった。北朝鮮や脱北者に対する日本社会の「負のイメージ」がなおさら過敏にさせた。

日本に来て驚いたのは、北朝鮮関連の報道といえば、悪いニュースばかりだということ。

「核問題などの報道を見て知識を得る日本人がそうなってしまうのは、ある意味仕方がないのかもしれない。でも被害者でもある民衆や脱北者まで悪いイメージを持たれてしまうのは悲しい。『政府』と民衆とは分けてほしい」

日本には現在、ハナさんのような「脱北者」が200人以上暮らしている。

「私自身が直接知っている人は一部ですが、その人たちはみな日本に基盤がない中で、頑張って自立して、自分の人生を切り開こうとしています。日本社会に迷惑をかけないようにと。そしてやはりカミングアウトや人間関係に悩んでいます」

韓国では「脱北者」が定住するためサポートする「ハナ院」があるが、日本は直接的な支援はないに等しい。自分が苦労した経験からも、ハナさんは「日本型ハナ院のようなものがあれば」と願う。
そして何より「自分と同じように、日本で新しい人生を送っている人のことをもっと知ってほしい」という。本を出版した理由もそれだ。
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