◆景山佳代子のフォトコラム
外国人観光客は「金のウンコをするロバだ」なんていう喩えを真に受けて、キューバでも有数の高級リゾート地バラデロにノコノコ出かけた私は、本当にマヌケな「ドンキー」だった。

周遊バスからみた建設現場。海が消えていく。(2012年3月12日バラデロにて)

 

バラデロには、信じられないほど巨大なリゾートホテルが、雨後の筍のように建設されていた。
客の大半は、白人の団体旅行か家族連れで、飲み放題のモヒートやラム酒を手にロビーをうろうろしている。プールサイドには、日焼けで背中を真っ赤にはらしながらデッキチェアに寝そべる観光客。24時間食べ放題の(あまり美味しくない)ビュッフェでは、キューバの人には考えられないほど大量の食べ物が食い散らかされていた。
ホテルの中の作り物の「キューバ」に辟易して、私は5ドルで一日乗り放題の市内観光バスにあてもなく乗り込んだ。
その日は、キューバに来て初めてのどんよりした曇り空だった。
車窓を流れる灰色の景色を見ながら、私たち外国人観光客は「金のウンコをするロバ」なんかじゃなく、すべてを踏みつけ、食い尽くしながら動き回る「巨神兵」のような気がしてきた。

バラデロの市街地には土産物屋とレストランが立ち並ぶ。外国人観光客かそれを相手に商売する人しか見かけない。(2012年3月12日バラデロにて)

 

まるでイギリスのお城のように広大な敷地が外国人用ホテルによって占有されている。
波打つ白い砂浜への道には「関係者以外立ち入り禁止」の札が立てられ、ビーチにキューバの人の姿は見られない。
美しいはずの海岸は埋め立てられ、建設中の鉄骨むき出しのホテルで、無粋な重機がゆっくり鉄筋を吊り上げていた。それは私に巨大な廃墟を思い起こさせた。
どこかで見た景色だと思ったら、コンクリートで「整備」された沖縄の海岸とそっくりだった。
観光客のために、便利で快適な空間をつくっていく。
でも浮気な観光客は、自分たちのために整えられた空間にいずれ飽きていく。
建築直後は新しくて素敵なホテルも、20年あるいは10年先には古びたホテルに変わっていく。そのときこのコンクリートの塊は、地元の人に何をもたらしてくれるんだろう。
バラデロは、私がお金を落とすロバなどではなく、貪欲な巨神兵であるという事実を、はっきりと教えてくれた。

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