立岩陽一郎(ジャーナリスト)

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【連載開始にあたって編集部】
新聞、テレビなどマスメディアの凋落と衰退が伝えられる米国。経営不振で多くの新聞が廃刊となりジャーナリストが解雇の憂き目にさらされるなど、米メディアはドラスティックな構造変化の只中にある。 いったい、これから米国ジャーナリズムはどこに向かうのか。米国に一年滞在して取材した立岩陽一郎氏の報告を連載する

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第2章 非営利ジャーナリズムの夜明け

筆者とルイス。ルイスのこよなく愛するジョージ・ワシントン邸にて。

筆者とルイス。ルイスのこよなく愛するジョージ・ワシントン邸にて。

 

著名な調査報道記者であり、アメリカン大学大学院の教授、そしてその大学院に併設されたメディアであるIRW(Investigative Reporting Workshop)の代表、更には様々な団体の理事・・・・・・といくつもの役職を持つルイスは実に多忙だ。大学には週に2日か3日しか顔を出さない。この為、大学に出ている日を見つけてはルイスを探し、授業に向かう途中や車に乗り込む間際に話を聴いた。

ルイスはIRWについてどう評価しているのだろうか。尋ねてみた。
「非営利ジャーナリズムはまだその財政基盤が盤石とは言えない。それは私が作ったCPI(Center for Public Integrity)にしても同じだ。常に我々は財団からの寄付を得る為に奔走しなければならない。しかし大学の保護下に置かれると、状況は異なる。寄付を集める必要は有るが、はるかに余裕が有る。それに、若くて優秀な大学院生を使えるのも魅力だ。勿論、大学院生を使うのにお金はかからない」

CPIは今や記者50人を擁する。非営利ジャーナリズムとしては、ニューヨークのプロ・パブリカ(Pro Publica)と並んで最大規模となっているが、ルイスが代表を務めていた当時も記者30人ほどを雇っていたという。記者30人の雇用を維持する為に寄付金を集めるのは今も当時も容易ではない。ルイスは大学の保護下に入れば、その負担は軽減できると考えたわけだ。

ルイスがIRW設立に関してアメリカン大学の理事会に提出した起案書がある。今も残るその起案書には、次の様に書かれている。

『アメリカに於ける調査報道はこれまで、新聞と放送という主流メディア(main stream media)と呼ばれる報道各社に雇われたジャーナリストによって実践されてきた。多くの場合、それらは、1つのトピックを数ヶ月から数年にわたって追い続ける高い能力を持ったベテラン記者のチームによって行われてきた。不幸にして、そして愚かなことだが、近年の経済状況が報道各社に、調査報道にかける費用を削るか無くす方向に向かわせている。

調査報道が、我々の生活に大きな影響を与える強大な公的機関や巨大企業の活動を監視する役割を担う事で、社会に寄与してきた事は疑いを挟まない。つまり、この重要な役割を担うための能力が全体として減少しようとも、調査報道の必要性が消えるものではない。

問題は、どのような形で強力且つ公共の利益に資する調査報道を残し、更に育てていくかだ。これはアメリカだけの問題ではない。特に近年民主主義が普及しつつある中米や東欧など、世界の多くの地域で求められている。

解決策の1つとして、調査報道ジャーナリズムを「非営利」や「第三セクター」の分野に移すという方法がある。実際、アメリカン大学客員特別ジャーナリストのチャールズ・ルイスによって設立された非営利ジャーナリズムのCenter for Public Integrityは、この選択が有効である事を示す素晴らしい実績を示している。

このCPIスタイルの非営利ジャーナリズムはチャールズ・ルイスの指導を得て全米に広まり始めている。例えば、UCバークレー(カリフォルニア州立大学)では、学生が調査報道の重要な担い手になるプログラムが作られている。』
また文書には、「IRWの目指すものとその機能」として次の様な点が挙げられている。

『IRWは生徒に対して、刺激的で新しい学びの機会を提供する。また、教員に対しては教育と研究の場を提供する。我々はこれを世界中の優秀な調査報道ジャーナリストを集める磁石として活用したい。IRWは、アメリカン大学コミュニケーション大学院をジャーナリズムの最先端の場として評価を高める事になるだろう。そして、特に大学院に於いて、優秀な学生を集めるのに役立つだろう。

IRWのモデルは、セサミストリートを制作しその後の教育テレビの保育器且つ革新的な存在となったチルドレンズテレビジョンワークショップ(Children's Television Workshop)にある。私たちはこれまで調査報道を担ってきた主要な報道機関にとってかわろうとするものではない。それよりも、調査報道を全米、全世界に届ける為、それらの報道機関と連携を模索したい。』

また、IRWの役割については以下のよう書いている。
『1:活字や映像による独自の調査報道を行い、マルチメディア展開する。その活動には、アメリカン大学コミュニケーション大学院の教員や学生も参加する事が出来る。また、他の非営利ジャーナリズム団体やフリーランスの調査報道ジャーナリストもパートナーとして参加する事が出来る。
2:調査報道の新たな手法や技能を実践する為の革新的なプロジェクトを行い、その為の保育器の役割を担う。それらのプロジェクトには報道各社、非営利ジャーナリズム、大学などがパートナーとして参加できる。
3:調査報道についてのアカデミックな研究について支援する。
4:調査報道の発展や新たな技能の試みの為の実験室となる。
5:調査報道に関する資料を収集する。
6:調査報道を志すジャーナリストの為の資料センター兼情報センターとなる。特に、市民ジャーナリストや国際的な団体によって支援されている非営利のジャーナリズム団体をその対象とする。
7:その他、自由な社会に資する調査報道を促進する為の様々な活動を促進する。』

非常に意欲的な内容だ。こうして2008年3月に始まったIRWは、既に紹介したジョン・ダンバーの通信事情をめぐる問題や前回紹介したベテラン・ジャーナリストとの共同プロジェクトなど、次々と調査報道に取り組んでいく。

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