◆「旅券返納命令は妥当」に疑問の声を

2月、杉本氏に旅券返納命令が下され、憲法で保障された「渡航の自由」が制限されたとの批判が出た一方で、「政府に迷惑をかけるな」という声が上がり、当時ネットや新聞の世論調査では6~7割の人が「旅券返納命令は妥当」と答えた。

杉本氏は、シリア北部の「イスラム国」から解放されたコバニでの攻防戦取材やクルド人部隊によるプレスツアーの参加を予定していたという。杉本氏の 現地での取材によって日本政府が自己に都合の悪い事実が暴かれると恐れて規制したとは考えにくい。しかし、旅券返納命令を認めてしまうと、今後政府の恣意 的な判断によって取材の自由が制限されることになりかねない。

戦後70年間、日本は終戦直後に抱いた、二度と戦争を起こさないという共通の思いを胸に歩んできた。シンポジウムで石川氏は、「戦争が終わった時はみんな 憲法第9条など当然という気持ちだった」と語った。しかし、安倍政権によって9条の解釈や9条そのものが変えられれば、自衛隊が海外で武力行使をする事態 も考えられる。現地で行われているさまざまな事実を知らなければ、国民は政治に有効に参加することはできない。

シンポジウムに登壇した5人のジャーナリストの口から、旅券返納命令に反対する意見が出たことはその深刻さをあらためて世に問うものとなった。
なぜ危険地帯を取材するのか? ジャーナリスト5人が語る危険地帯取材の意義と課題(上)

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