石丸 後者になりそうな方向に進んでいるように思えますが......。
キム 私は、政治経済の制度を変えないまま、傾いて倒れて行く藁葺きの家をいくら支えたところでダメだと思います。そのためには、今のように地位にしがみついている年寄りを大胆に若者に交代させなければなりません。

幹部たちは今、自分の首を繋ぎとめるのに没頭しています。一事が万事、わが国は「やれ! できなければクビだ!」という恐怖で維持されているんです。
石丸 すでに父と祖父の神格化と自己の偶像化に邁進しているように見えます。
キム 「錦繍(クム ス)山太陽宮殿」の改装などの、非生産的なことはやめるべきです。金正日が、死んだ金日成のために莫大な金を使って作った施設を、今度は正恩が父親の遺体を安置するんだと言って、わざわざ壊して作り直し、芝生を植えています。

非経済的で生産に影響するとわかっていても、幹部たちは自分の首が落ちるのが怖いから、率先して動かないといけない。経済は逼迫し切って人々が倒れているのに。このままでは「苦難の行軍」を自ら作り出しているようなものですよ。 (了)
<奪われるために働く農民たちの悲惨>記事一覧

* * *
取材後記
すでに何度も対話を重ねてきたリムジンガン編集部の中国人メンバーが同席していたとはいえ、キム氏は初対面の日本人記者の私に、とても率直に自分の考えを話してくれた。とりわけ金一族支配に対する厳しい評価を隠そうとしなかったことには、正直少し驚いた。面談時、金正日がすでに故人となっていたこと、金正恩がまだ海のものとも山のものとも分からず、新しい北朝鮮の統治体制の行方が不透明だったからかもしれない。
キム氏との会見後に張成沢は粛清・処刑されたのであるが、金正日の死後、張の勢力が台頭しつつあり、そこに北朝鮮を改革開放に導く一縷の期待を持っているというキム氏の見方は、当時の北朝鮮エリートたちの中のムードを推測する上でとても興味深いものであった。
またキム氏が指摘した張の実力者然とした態度が、後に粛清の理由として北朝鮮メディアで批判された内容と重なっていたことに驚かざるを得なかった。権力核心内部で、張の振る舞いに対して早くから批判や警戒が持ち上がっていたのかもしれない。
インタビューの最後に私は少々辛辣な質問をキム氏にぶつけた。自分も労働党の幹部でありながら、他の幹部たちの悪辣ぶり、腐敗堕落ぶりを批判することに矛盾はないのか、と。
彼は、自分も民衆を欺瞞して生きていることを認め、次のように述べた。
「口では党を褒め、金正恩を称えます。頭の中ではずっと怒りが渦巻いているにもかかわらずです。『職務上、この場で何を言うべきか』『私は農民を欺瞞し歴史の前に罪悪を犯している』『失言だけはしてはならない』この三つの考えが常に頭の中に共存しているんです。こんな話が打ち明けられるのは、本当に信頼できる友人だけで、家族も完全には信用できません。いつか捕まるかもしれないという不安が頭の片隅から消えることはないんです」
当記事は、『北朝鮮内部からの通信「リムジンガン」第7号』に掲載されています。

<<農業担当幹部秘密インタビュー(5)へ

★新着記事