調査報道を専門とする記者や研究者がジャーナリズムの重要課題について議論するシンポジウムのジャーナリズム・フェスタ。その第4回が10月28日、大阪市で開かれた。ジャーナリストの職能集団やNPOが2010年から実施しており、今年は「国境越え協働する調査報道の新地平を考える」をテーマとした。この春のパナマ文書報道を例に、携わったジャーナリストも交えて今後の調査報道の在り方を探った。同月5日に発足した一般社団法人政治資金センターの設立の経緯や今後の計画も報告されたほか、日本で先駆的に活動を始めている調査報道認定NPO法人アイ・アジアが、政治と金の独自報道について紹介した。(アイ・アジア編集部

第1部では「政治と金」を伝える新しい仕組みについて3人が発表した。(写真=鹿嶋理英子)

 

アジアプレス・インターナショナル、自由ジャーナリストクラブ(JCL)、政治資金センター、DAYS JAPAN 関西サポーターズクラブ、アイ・アジアが共催し、インターネットによる動画配信も行った。会場には65人が訪れた。

冒頭、デイズジャパン関西サポーターズクラブの石田肇さんが「マスメディアの終焉と報道」と題した前回2013年の第3回ジャーナリズム・フェスタを振り返った上で、「今回は情報公開請求によって次々と不正が明らかになった政治資金問題、パナマ文書など、既存の手法とは異なる報道の在り方を議論する場として、シンポジウムを行います。主催者一同、このような議論の場はなかなかないものだと自負しています」などとあいさつした。

フェスタは2部構成で、第1部では「『政治と金』を調べ伝える新しい試み」について、3人が発表した。まず、弁護士で政治資金オンブズマン共同代表の阪口徳雄さんが、自ら関わった政治資金センターの設立の経緯を説明した。

阪口徳雄さん(写真=鹿嶋理英子)

 

阪口さんは、最高裁判所が会社よる政治献金を認めた八幡製鉄献金事件(1970年)に触れながら、この事件を政治献金は違法であるとの立場から見直すために訴訟を起こしてきたと自己紹介。そして、司法の判断を覆すことができなったことから、もっと具体的・個別的に政治と金の問題を調査しようと2002年、政治資金オンブズマンを始めたことなどを説明した。

政治資金オンブズマンは、とりわけ国会議員の政治と金に関して告発や検証をしたり、国会に質問状を出したりしているが、阪口さんは「それだけでは我々がやっているだけで、大きな力にはならない」と指摘。これが政治資金センターの設立に取り組む動機になったとした。

総合建設業者である西松建設からの寄付1000万円が、設立を後押ししたことも紹介した。このお金は、西松建設がダミー団体を作って国会議員に裏の金を配っていたのは違法だとして株主が同社を提訴し、その和解時にもたらされたもの。阪口さんは株主の弁護団長を務めていた。

「私どもが企業献金を止めなさいと要求を出していたところ、西松建設から『企業献金を自分のところだけ止めるわけにはいかない。政治と金の監視団体を作っていただけるなら、それに寄付をしましょう』という提案があった」(阪口さん)。

政治資金センターは、政治家の政治資金収支報告書を一元管理して検索可能にすることを目指すと言う。現在アイ・アジアの協力を得て進めているが、阪口さんは、全国で政治と金を調査するサポーターも募りたいと述べた。

例えば、政治資金収支報告書には、どの店でどれだけのお金を使ったかが記載されているが、その店が実際に会議に使えるような場所なのかといった特徴は、地元の人でないとわからないことが多いからだ。全国のサポーターが協力することで、市民による監視の目をより強くする狙いだ。

続いて、政治資金センターの理事に就任した神戸学院大法学部教授の上脇博之さんが、このセンターがいかに社会に貢献できるかについて話した。政治資金センターでは衆参両院の国会議員と都道府県知事の政治資金について、誰でもインターネットですぐに閲覧・印刷できるようにすることを目指すとし、その理由を説明した。

上脇博之さん(中央。右端は鈴木祐太)(写真=鹿嶋理英子)

 

例えば、国会議員1人が政治団体を複数持つケースは少なくなく、それぞれの政治資金収支報告書の提出先が異なっていることから、一元的に集めてすぐに見られるようにするメリットは大きい。また、提出先の一つである地方の選挙管理委員会は「インターネットで公表しているところはまだ半分くらい」(上脇さん)であるため、内容を確認するには情報公開請求をする必要があり、お金も時間もかかる。そのため個人が行うには負担が大きい。

上脇さんはこのほか、同様の取り組みをしているサイトとして「政治と国民を近づける会」が運営する「ラポール・ジャパン」を紹介し、彼らも有益な情報を公開しているとした上で、政治資金センターの特性を強調した。まず、ラポール・ジャパンと異なり、政治資金センターは、政治資金収支報告書そのものをPDFファイルでサイトに掲載。また、国会議員だけでなく、都道府県知事のものも追加する。「それ以外には、政治資金収支報告書を見て特徴的な点を分析したり、政治資金について解説したり。研究者、弁護士が参加しているので、他にない特徴を出したい」と話した。

政治資金収支報告書を分析したいという人が出てくれば、ノウハウを共有する方針で、上脇さんは「今までにない形で、国民の皆さんが政治資金収支報告書に接することができて、多くの目で政治資金をチェックできる。そういうセンターを目指しています」と述べた。

最後に、アイ・アジア唯一の専属記者である鈴木祐太が、阪口さん、上脇さんと共に政治と金の問題について調査を進めてきたことを紹介し、代表的な事案として、今年1月の島尻安伊子・内閣府特命担当大臣(当時)に関する報道を紹介した。これは、島尻大臣が自らの政治団体に夫が理事長を務める専門学校から献金を受けたが、その専門学校は、文部科学省傘下の学生支援機構から補助金を3年間で1000万円以上受けていたというもの。

鈴木は「政治資金規正法では、国から補助金を受けている団体からの献金は違法となっている。学生支援機構は国の組織ではないので違法ではないが、アイ・アジアでは違法ではないからと言って許される訳ではないと判断し、報道した」と説明。「もちろん違法なことも報道するが、そのような道徳的に考えてダメということもフォローしていくのがアイ・アジアの方針」と強調した。<シンポジウム報告>(2)へ

写真=鹿嶋理英子

※当日の模様は動画(中島貫撮影)とツイッターまとめ(「ツイッターまとめ」で公開中。

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