外貨専用ショップに立ち寄った後、40分程歩いて内国人向けの商店に入った。店内は薄暗いが人も物も多い。二階に上がるとチマチョゴリを着た女店員がぴたりと背後に付いた。靴やら缶詰を売っているコーナーを一巡りしたところで、「先生は何をお探しですか?」と声をかけられた。

「トイレに行きたいんです。それから、朝鮮にしかないようなみやげ物が欲しいのです」
「それなら○○百貨店か青年ホテルの売店に行きなさい。さあ行きましょう」

女性従業員らに取り囲まれ、両腕を取られて階段を下る。そしてそのまま有無も言わさずホテルに連れて行かれてしまった。

ホテルの部屋に連れ戻されて一時間あまり、私は懲りずにもう一度、ホテルを抜け出すことにした。今度は目立たぬようカメラを置いて出た。ホテルを出ると、ちょうど路面電車が停留所に滑り込んで来た。どこに行くのかもわからないが、とりあえず乗り込んだ。

ワンマン運転のようで、中国のように車掌が見当たらない。10チョンと料金が書かれたオレンジ色の運賃箱に乗客はチケットのようなものを入れている。ただ乗りは気が引けたので、外貨専用の兌換券を投入する。車内は思ったより静かで、大阪や韓国の地下鉄の方がよほど騒がしい。なぜか喋っている人はみな小声だ。60代後半と思しき老婆が立っていたが、誰も席を替わろうとしない。

窓の外を見ていると、路面電車は平壌駅を通り過ぎてアパート街に入った。そこがどこなのか見当もつかないまま飛び降り、表通りに面したアパートから素早く裏通りに入った。人々はリラックスした表情だった。道端に座り込んで談笑したり、タバコをくゆらせたり。中心街ではほとんど見かけなかった老人たちの姿もあった。

住民にも話しかけた。怪訝な顔をされたけれども、邪険にされることはなく、差し障りのない会話をしていると、どこからともなく現れた中年男性に「どこからいらしましたか?外国人の先生が危険な目に遭ってはいけませんから、ホテルまでお送りしましょう」と、またホテルに連れ戻されてしまった。

この体験談を中国で会った脱北者や、平壌在住の取材協力者に話すと、「申告されたんですよ」と笑われた。外国人が来るはずのない所に来ているのを見かけたら、人民班(末端行政組織、「隣組」のようなもの)や警察に届けなければならない仕組みになっているという。この平壌の旅から20年以上が経っているが、平壌に住む協力者たちは口を揃えて「現在も状況は同じです」と言う。

読者諸氏が、もし平壌を訪れる機会があって自由時間に恵まれたら、思い切って「一号道路」の外縁に足を延ばしてみてはいかがだろうか。

「大同江の東側の寺洞区域、力浦区域や、兄弟山区域などは、高層

アパートもなく平屋が多い。住んでいるのはほとんど労働者で幹部は少ない」
平壌から脱北して、現在は日本に住むペク・チャンリョン氏の説明だ。
平壌に住む平均的な庶民の暮らしの一端に触れることができるかもしれない。ただし、申告されてホテルに連れ戻されることは覚悟しなければならない。(続く)

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