◆施工業者も調査義務違反か

そもそも大防法や労働安全衛生法(安衛法)石綿障害予防規則(石綿則)は受注者や施工業者に対し、アスベストの事前調査や対策を義務づけている。県警の発注ミスがあったとしても、業者が法規制に従って適切に対応をしていれば、違法工事は防げた可能性が高い。

同県警会計課は、アスベストの調査は発注前に独自に委託して実施したが、「外壁の吹き付け材」以外の調査・分析結果については「監督官庁がおこなっている調査に影響を及ぼす可能性がある」として回答を拒否した。

しかし、同課に取材した限りでは、各建物のすべての建材について網羅的な調査結果を発注前に作成していたわけではなさそうだ。おそらくは「吹き付け材」に限るなど相当限定的な調査ではなかったか。

そうであれば、今回の違法工事の原因となった「外壁の吹き付け材」のアスベストについて、別の建物に取り違えて記載していたとしても、現地調査をきちんとしていれば、誤記載にすぐ気づけたはずなのだ。少なくとも明確にアスベストが含まれていないことを示す根拠や分析結果が設計図書に示されていない限り、施工業者には調べる義務があったはずだ。

しかも解体前に実施しなければならない事前調査の結果について、大防法では受注者が発注者に対して「書面を交付して説明」する義務がある。解体工事を約4650万円(税込み)で受注した朝日建設(同市太山寺町)からアスベストの事前調査結果が書面で説明されていたのか同県警会計課に確認したところ否定した。

同社はアスベストの曝露・飛散防止対策を講じなかった大防法や石綿則の違反だけでなく、大防法における事前調査・説明や石綿則における事前調査の義務に違反している可能性がある。朝日建設は7月27日、取材を拒否した。

また同県警会計課は、アスベストの調査結果を誤記したのは設計業者とも説明している。ただし、同課は「設計事務所の確認不足だったのですが、そのまま発注してしまった」ことから自らの「発注ミス」と釈明している。たしかに発注者としての同県警の責任は免れないだろうが、間違った記載をした設計業者に責任はないのだろうか。

同27日、松山東署新庁舎と合わせて解体の設計を計約5400万円(同)で請け負った綜企画設計松山支店(同市山越)は当初「県警の説明がすべてです」と回答した。

ところが、アスベストについて建物を取り違えて記載したことは否定。県警側に確認のうえで回答するという。翌28日改めて同社に連絡すると、県警に確認したうえでの話として、「発表どおり、県警の発注ミス。県警から聞いたとおり設計図を作ったので記載ミスはしておりません」と改めて否定した。

アスベスト調査は設計委託に含まれておらず、県警側が情報を提供したことは両者とも認める。ということは、県警が何らか誤った情報を伝えたのか、それとも同社が取り違えたのか。

改めて同28日県警側に確認すると、「我々としては間違った説明をしたという認識はない」と答えた。

分析結果報告書には採取場所が記載されているはずだ。その記載に正しい採取場所が記載されていて、報告書が設計業者に提供されていれば、仮に間違った説明を県警がしていたとしても、設計側の確認ミスは免れまい。そうした裏付けを尋ねると、県警は「関係官庁の調査にかかわるため、事実関係は回答を控えさせていただく」と明確に答えなくなった。

結局、両者の主張は食い違ったままだった。県警による捜査あるいは松山労働基準監督署、松山市が丁寧に聞き取りや報告徴収をすれば、おのずと明らかになろう。

同県警は、吹き付けアスベストなどの除去において作業計画を2週間前までに都道府県など(今回は松山市)に届け出ることを定めた大防法に違反していたと発表している。

「本当に確認不足でいろいろご迷惑を掛けた」(同県警会計課)

今回の違法工事では、2016年6月大阪府堺市で起きた、アスベストを高濃度に含む煙突を対策なしに破壊してしまった事件が思い起こされる。この際、大阪府警が捜査し、指導・監督権限を持つ自治体として「示しがつかない」と同市に加えて関係職員4人を大防法の届け出義務違反で書類送検した。

愛媛県警もやはり届け出義務違反。法を守らせる側の県警との立場であり、どう襟を正すのか問われよう。

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