降雪の中で三池淵の工事現場を視察した金正恩氏。2018年11月労働新聞より引用。

◆金正恩政権のミサイル連射をどう見たか

北朝鮮の金正恩政権は1月中に計7回ものミサイル発射実験を実施し国際社会を騒がせたが、当の住民たちは、これをどう受けとめたのだろうか? 北朝鮮国内の取材パートナーが住民の反応を調査したところ、意外にもミサイル連射を支持する声が相次いだ。窮乏生活が限界に達し、自暴自棄的な空気が社会に漂っていることを伺わせる内容だった。(カン・ジウォン

 

――1月に金正恩政権がミサイルを立て続けに発射しました。住民たちは知っていますか?

「もちろんよく知っています。最初に撃った時は、私は核兵器があると宣伝しているのになぜ撃つ必要があるのかと疑問に思いましたが、人々は、中国と貿易を再開したのを契機に、(米国に)経済制裁を解除させようとしているのだと言っています」

 

――経済制裁を解かせるのが目的だと?

「(政府は)国防力を強化するためだと説明していますが、ミサイル発射は、米国に制裁を止めさせるのが目的だと考える人が多い。(居住する)市の労働党宣伝部の役人と、担当保衛員(秘密警察要員)に話を聞いてみたところ、『今、コロナで全世界が大変だけれど、(我が国は)さらに制裁をずっと受け続けているので、強く出て止めさせるのだ。中国とロシアが我が方に味方しているので、今がチャンスだ』と言っていました」

 

――庶民の受けとめ方はどうですか?

「皆が、本当に暮しに窮しているので、新義州(シニジュ)を少し開いたといっても、いつ元に戻るかわからないから、戦争でも何でもやって(状況を)変えないと生きていけないという意見が多いです」

 

――それは本音でしょうか?

「最近は、不満を口にするだけで『言葉の反動』で捕まってしまうので、わざと米国のヤツ、日本のヤツらが災いの元凶だと意見を言う傾向があるのは事実です。それは表向きの言葉ですが、ミサイル発射をきっかけに、『そうだ、今動かなければ、我われは飢え死にしてしまう。行動すべきだ』、そんな雰囲気が一気に強くなったと思う」

※1月17日に平安北道(ピョンアンプクド)新義州と中国丹東間で、2年ぶりに列車による貿易が再開された。

◆いちかばちか戦争やってみたらいい

以下は、取材協力者が聞き取りした3人の声である。

●鉄鋼関係の工場労働者 男性 除隊軍人 年齢不詳
「(米国とは)会談もしたし、我われが核を持っているというのに、経済制裁をずっと受け続けるのは、我々のことをまだ侮っているからだ。ミサイル発射でも何でもしなければならない」

●市場で自転車部品を売る商人 女性 40代
「コロナウイルスは朝鮮には入っていないのに、物資を(外国から)入れようとしても制裁のせいで入らないそうではないか。これは我われを飢え死にさせようとするものだ。こうなったら、実験だけでなく、ミサイルを直接撃ち込むべきだ。いちかばちかやってみたらいい」

●30代の主婦。医薬品不足で夫が昨年末に死亡
「以前は食べるために違法なこともしてきたが、(取り締まりが厳しくて)今は密輸もできないし、中国に越境して窃盗してくることもできない。何もできない。お金もないし、家には売るものもが一つもない。農村に行ったら暮らせるのかな。政府は食糧を供給すると言っているけれど、いつのことになるかあてにできない。とにかく、勝とうが負けようが戦争してみたらいい。決着を付けなければならない」

 

例え戦争になろうとも事態を動かさないと窮乏に耐えられない…。追い詰められた庶民の心情が伝わってくる。金正恩政権は2年前に新型コロナウイルスのパンデミックが発生すると、直ちに中国との国境を封鎖して貿易を強く制限した。自国民に対しては、強力な移動統制を強いて商行為も制約。現金収入を失った都市住民が困窮に苦しむようになった。経済制裁に加え、政権の過剰なコロナ対策が現在の窮乏を生んだのは明らかであるが、繰り返し「米帝国主義による圧殺政策で困難が生じている」と宣伝し、責任を転嫁してきた。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

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