幹部たちと降雪の中で三池淵の観光特区の工事現場を視察した金正恩氏。今後側近の幹部たちも「金正恩世代」が登用されるのか。2018年11月労働新聞より引用。

北朝鮮政府が2022年末から、地方の行政機関、国営企業、労働党組織の幹部の交代を大々的に進めていることが分かった。若い世代の登用・抜擢が目立ち、住民たちの間で驚きの声が上がっているという。 (カン・ジウォン/石丸次郎

北朝鮮では幹部の人事のことを「幹部事業」という。北部地域に住む取材協力者が昨年12月末に伝えてきたところによると、国営工場と企業、協働農場を中心に活発な「幹部事業」が展開されたという。

「今年(2022年)に少しでも問題があった幹部たちは完全に交替させるような勢いだ。主導しているのは道の党中枢幹部で、大勢の若い人たちが中間級の幹部に登用されている。軍隊を除隊して間もないような若者もいて、元の幹部たちは破格の『幹部事業』に衝撃を受けている」

協力者はこのように伝えてきた。

◆労働党下級幹部にも若者を抜擢

一口に幹部と言っても、北朝鮮の場合、あらゆる機関に2種類の幹部がいる。実務を担う幹部と労働党組織の幹部だ。国営企業や協同農場には、その大小と関係なく必ず党組織がある。今回の「幹部事業」は主に実務担当幹部が対象だったが、党組織の幹部が交代する事例も珍しくなかったようだ。

「恵山(ヘサン)の鋼鉄工場の場合、40代の中後半だった『細胞書記』が、ほとんど若い世代と交代になった。30代前半の『細胞書記』まで誕生した」と、両江道(リャンガンド)に住む協力者が伝えてきた。
※党組織の最小単位を細胞という。その責任者が「細胞書記」。国営企業内では職場ごとに党組織が作られることが多い。

◆金正恩世代への交代作業か

この「破格の幹部事業」の目的は何なのだろうか? 協力者たちは次のような説明を受けた。

「道党では、『人材を探し出して実際に仕事ができる人間を育てなければならない。そのために果敢に「幹部事業」を行う。ただ、権限を持つ高い職責ではなく、当面は中間幹部までの地位を与える』のだそうだ。

顔色を伺って機会だけを見る人間ではなく、実際に『水にも火にもひるまず』に仕事をする熱誠分子たちに幹部たちを交代させるのが目的だと説明があった。

若者を抜擢するのは、年長の人たちの党政策の執行状況をつぶさに見させ、間違ったことを正し、互いに競争するように仕向けるためだそうだ」

協力者たちによると、実務担当幹部に抜擢された若者の大部分は「党員、大学卒業、除隊軍人」のキャリアを備えた者たちだという。金正恩時代に入ってからの「教養事業」をたっぷり受けてきた新世代を、金正日時代の旧世代と入れ替えようというのが、政権の意図だと見られる。

◆若い幹部は「石器だ」

しかし、この若い世代の幹部登用については、各職場の評判は芳しくないようだ。協力者は次のように説明する。

「石器(石頭)の若い者を幹部にすると、ガチガチで融通が利かず職場が窮屈になって疲れるに決まっていると、若い幹部を警戒するような意見が多い」

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

 

 

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