ミャンマー内戦では国軍と抵抗勢力の双方がドローン兵器を駆使する。だが、資金力の乏しい抵抗勢力はドローン妨害機(ジャマー)などが不足し、ドローン攻撃に対する対策が遅れている。州内の最前線を取材中、国軍のドローン兵器に襲われたときの様子を伝える。(新井国憲)

国軍のドローン爆弾により負傷した兵士(2025年1月 撮影:新井国憲)

◆激戦地モービィエ

「犬(国軍)は、あの木の下にいる」

深く掘られた塹壕に身を潜め、ひそひそと話すカレンニー諸民族防衛隊(KNDF)の兵士たち。国軍兵士との距離は数百メートル。前方をじっと見つめ、ほとんど物音をたてない。

国軍のいる拠点を指差すKNDFの兵士(2025年1月 撮影:新井国憲)

ここはカレンニー州激戦地の一つ、モービィエ。州北西部に位置し、国軍の支配するミャンマー中部や州都ロイコーに繋がる戦略的に重要な地域だ。

カレンニー州(カヤー州)はミャンマー東部にあり、タイと国境を接している(地図作成:新井国憲)

その前線は、草木が生い茂る急峻な丘にあった。抵抗勢力が陣取る丘から北東方面、国軍の支配圏を望む。住居や工場を目視できるが、人影はない。不気味な平地が広がっていた。

国軍の拠点となっている建物(2025年1月 撮影:新井国憲)

モービィエ奪還を試みる国軍に対し、KNDFをはじめとする抵抗勢力は「国軍包囲網」を敷く。以前は国境警備隊(BGF)として国軍傘下にあったカレンニー諸民族人民解放戦線(KNPLF)、パオ人の青年で構成されるパオ民族防衛隊(PNDF)など様々な勢力が連携。寒暖差激しい森の中、24時間の迎撃体制を取る。

「最近、国軍の部隊は近づいては後退を繰り返しています。戦闘が始まる予兆です。スナイパーが撃ってくることもあります。我々も数日前、地雷をたくさん埋めました。いつでも戦う準備ができています」と前線の兵士。

森の中のKNPLFの部隊。部隊は約2~3週間ごとに入れ替えるという(2025年1月 撮影:新井国憲)

この丘の支配権を巡る攻防は3ヶ月ほど続いている。丘の森や付近の道路には、ランチャー弾や爆撃で地面が削られた跡が真新しい。同行する兵士のケビンは「俺たちは7ヶ月くらい前に、この地域を国軍から奪うことに成功した。だがその後、国軍は怒り狂ったような空爆で反撃してきた。国軍は戦闘で負けたらいつも空爆を強化するんだ」と語る。

国軍の爆撃の跡(2025年1月 撮影:新井国憲)

主に中国製やロシア製を使用する国軍のドローン兵器は、高度1500メートル以上まで飛行できる。目視できず、ジャマーの妨害電波も届かない。上空を飛行するドローンの音だけが聞こえるという。

兵士たちは木陰や塹壕に隠れるが、頻繁に国軍のドローン兵器に襲われる。ケビンとKNDFのバンカー(前線基地)へ向かう途中にも、着弾する乾いた音が辺りに轟いた。「今の音聞こえたよな、さすがに近すぎる!」。慌てて付近の村に引き返した。「今のはドローン爆弾だ、PNDFのバンカー辺りだろう」

州内で国軍のドローン攻勢が顕著になったのは2024年以降。KNDFを中心とする抵抗勢力が「1111作戦」(作戦が開始された11月11日に因む)と称する大規模な作戦で、国軍を追い詰めていた頃だ。抵抗勢力は州都ロイコー陥落を予期させる破竹の勢いで進撃したが、国軍のドローン兵器を主力とした怒涛の反撃に遭い、遂にロイコー撤退を余儀なくされた。

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