◆負傷兵は病院へ搬送
最寄りの村に到着すると、既に医療班が治療を施していた。非番の兵士たちも駆けつけ、仰向けの負傷兵を囲む。「他に傷はあるか」。衛生兵が低く鬼気迫る表情で尋ねていた。破片が食い込んでいたのは腕、腰、太もも。そこから溢れた血が負傷兵の全身を濡らしていた。患部からは鮮血が流れ、地面のコンクリートを赤黒く染めた。
「腕に刺さった破片は、骨に達しているかもしれない」
衛生兵が包帯を巻きながら物憂げな表情で呟いた。負傷兵は痛みを堪えているのか、宙を見上げては目をつぶる。

治療を終え、数名の兵士たちが負傷兵を担いでピックアップトラックの荷台に乗せた。「診療所に着いたら、鎮痛剤を打ったことを伝えてくれ!」。衛生兵が焦燥感に満ちた顔で叫んだ。負傷兵はその後、看護師のいる診療所から手術可能な病院へと搬送された。
拠点に戻ったケビンは「国軍のドローンはおれたちを見つけられず、路上にあったバイクを狙ったんだ」とドローン襲撃を振り返った。あと数メートル横にいたら、全員がドローン兵器の餌食になっていた。
爆撃された瞬間がスローモーションのように思い起こされ、背筋が凍った。「2人とも重傷ではないはずだ。心配は要らない」。ケビンは汗でびっしょり濡れた髪をかきあげながら、そう話した。

モービィエでは今も国軍と抵抗勢力の激しい攻防が続いている。新しい兵器に苦戦を強いられる抵抗勢力は、残存する国軍を攻めあぐねている。
新井国憲(あらい・くにかず)
1997年生まれ、福岡県出身。大学卒業後、2023年からフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。関心分野は紛争地、民族。現在はミャンマー内戦に焦点を当てて取材中。
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