
第6IDPキャンプに滞在する人々の多くは、収入を得るためにゴマ栽培に励む。20年以上ディモーソーで暮らしていたブリッポさん(52)も、ゴマ栽培のためにタイ国境付近の村に通っていた。しかし、空爆が激しくなり、1年前にこのキャンプへ逃れてきた。

「もう一度家族で集まることが願いです」と語るブリッポさんには、3人の子どもがいた。そのうち長女は、ヤンゴン(旧首都)で海外へ行くためのパスポートを申請したとき、国軍側に拘束された。国軍と戦うカレンニー諸民族防衛隊(KNDF)の兵士だった長男に送金したという容疑だった。
劣悪な環境で悪名高いインセイン刑務所に投獄され、懲役10年を宣告された後、刑務所内で死亡した。死因は冠動脈疾患だというが、真相はわからない。
不幸は続いた。長男はまだ22歳だったが、KNDF側の大規模な国軍殲滅作戦「1111作戦」の最中に戦死した。どちらも一昨年12月に起きた悲劇だった。わずか1週間で2人の子どもを亡くした。

唯一残った末娘は、国境に近い別の難民キャンプで暮らしている。空爆の多い州西部では勉強がままならず、「(安全な)学校に行きたい」と話していたという。ブリッポさんは「娘にお金を送る必要がありますが、キャンプで収入を得ることは難しい」とそっと目頭を拭った。
現在、タイ国境付近は国軍の空爆が少なく、比較的安全だ。だが、内戦で故郷や家族を失った避難民は憔悴していた。食糧や水が不足し、厳しい環境で暮らす避難民の苦境は、戦禍を逃れた後も続いている。
新井国憲(あらい・くにかず)
1997年生まれ、福岡県出身。大学卒業後、2023年からフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。関心分野は紛争地、民族。現在はミャンマー内戦に焦点を当てて取材中。
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