◆片足失った兵士 「未来見えない」

「もし地雷を踏んでしまったら、絶望感に苛まれることは分かっていました。実際にそうなった今、死にたくてたまりません」
この施設に3ヶ月ほど暮らすゾーゾーさん(22)は、「民主主義を実現し、自由や人権を手にしたい」という思いで、約3年前にKNDFの兵士になった。だが、数ヶ月前、州北西部ディモーソー付近の前線で片足を失った。
負傷したのは、戦闘を終え、撤退した国軍の拠点を見回っていたときだった。家屋に足を踏み入れた瞬間、地雷が作動。その爆発で、周囲にいた兵士たちも巻き添えに遭った。
今は松葉杖に頼り、義足の手配を待つ。「片足を失ったという現実を、徐々に受け入れられるようになりました。でも、未来は見えないままです。私の夢は閉ざされ、この先何をするのか、考えることもできません」。ゾーゾーさんはか細い声でそう話した。

施設で最も懸念されるのが、体の一部を失った兵士たちの精神状態だ。ゾーゾーさんのように、希死念慮に心を蝕まれ、自傷や自殺を試みる者も少なくない。
そうした行為に及ばないよう、ナインさんら職員も神経を使っているが、国軍の空爆や兵士の惨状を目の当たりにする職員自身も心を病んでいる。
「実は、私の精神状態もよくありません。ですが、ここには精神科医や心理カウンセラーはいません。どうにかして配置できないかと話し合っているのですが…」とナインさんの口調は重い。
◆空爆で頭部を負傷した少年

ナインさんのそばを離れずに歩く小柄な少年も、この施設で暮らしている。両親のいない少年は州都ロイコー付近で空爆被害を受けた後、この施設で保護されている。
「夜中、寝ているときに空爆され、気づいたら頭に怪我をしていました。森の中を走り、叔母の家まで逃げました」
最大都市ヤンゴンに住む2歳年下の妹とも離れ離れだ。「妹に会いたい。いつもそればかり考えています」とうつむきながら話した。
現在、少年は近隣の仮設学校に通いながら、施設の兵士たちと生活を共にしている。英語や仏教の勉強も好きだが、兵士たちのスマートフォンを眺めたり、戦争ゲームをしたりするときが何より楽しい時間だという。
将来の夢はエンジニア。理由を問うと、「この戦争に勝って、めちゃくちゃになった故郷を建て直したいから」とためらわずに答えた。
幼くして戦禍に巻き込まれた少年の表情は、暗く沈んでいた。足を失くした兵士たちも同様に苦悶の表情を浮かべ、施設には重苦しい空気が漂っていた。
ナインさんによると、療養を終えた兵士の多くは抵抗勢力の事務職に就くか、家族の元で暮らす。だが、義足の提供を待つ兵士の一人は「ここでの治療が終わったら、もう一度国軍と戦います」と話した。彼のように、再び前線に立つ者もいる。
身体の一部を失っても、国軍を打倒し、民主主義を手にしたいという意思は消え失せない。「国軍に勝つまで、私たちは戦い続けます」。施設の全員が共有している、確固たる意志だ。(連載了)

新井国憲(あらい・くにかず)
1997年生まれ、福岡県出身。大学卒業後、2023年からフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。関心分野は紛争地、民族。現在はミャンマー内戦に焦点を当てて取材中。
ミャンマー内戦4年 解放区潜入1ヵ月 タイ国境・カレンニー州からの報告(1)日常化する空爆 到着直後に戦闘機が襲来
ミャンマー内戦4年 解放区潜入1ヵ月 タイ国境・カレンニー州からの報告(2)解放区への逃亡「国軍の半分以上は徴兵兵士」
ミャンマー内戦4年 解放区潜入1ヵ月 タイ国境・カレンニー州からの報告(3)取材中、国軍のドローン兵器に爆撃される 抵抗勢力はドローン兵器に対処できず
ミャンマー内戦4年 解放区潜入1ヵ月 タイ国境・カレンニー州からの報告(4)苦境続く国内避難民 「国軍に人生のすべてを壊された」
ミャンマー内戦4年 解放区潜入1ヵ月 タイ国境・カレンニー州からの報告(5)密林の療養施設 「足を失い、死のうと思った」