◆ 住民は柳の木を煎じて飲み、国は金儲け

北朝鮮住民にとって民間療法は、脆弱な医療サービスと医薬品不足を補う重要な手段だ。医療情報や知識が不足している北朝鮮住民は、中央放送の情報に依存している。カン・ギュリン氏は、これもまた被害を増大させたと話す。

「柳の枝を煮出した水を飲むように放送で流したのですが、飲みすぎて死ぬ人まで発生しました。後に、国はそのような放送は流していないと否定しました」

不適切な医療対応は他にもある。キム・ミョンオク氏は、当局が新型コロナウイルス感染症の予防接種として、パラチフスワクチンを接種したと証言する。

「コロナの予防接種だといいながら、実際はパラチフスワクチンを使いました。接種した人は高熱が出てひどく苦しみました。だからみんな怖がって、予防接種を受けませんでした。うちの下に住んでいたおばあさんも、その予防接種を受けたせいで亡くなりました」

後に中国から輸入された薬品は、薬局で国定価格で売られたが、以前の市場価格よりはるかに高く売られたとキム氏は強調した。

「(2022年)5月末頃、薬が入ってきたようです。ブドウ糖は、コロナ前は2200~2500ウォンだったのが、6000~7000ウォンで売られていました。国が商売したんだよ」

◆ 食糧が底をつき、死にゆく人民

2022年6月初め、アジアプレスの取材協力者が北部地域の住民感染状況と当局の対応について知らせてきた。それによると、感染の有無を判断する唯一の方法が体温測定だったことがわかった。

「熱があれば、隔離されて家から一歩も出られない。一週間ほど経ってから、もう一度体温を測って、熱が下がっていれば全快者に認定される。『有熱者』として登録されている間は、人民班長を含め誰とも接触禁止になった」

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当時(2022年6月6日)、この協力者が所属する人民班では、6人の重症患者と12人の全快者、7人の有症状者がいたという。これは、この人民班の30~40%と推算される。

カン・ギュリン氏は、「食糧が底をついた人も多く、飢え死にする人も出てきて、大変な騒動だった」と当時の状況を伝える。

カン・ギュリン氏

まともな食糧供給対策もないままに全国的な封鎖が始まり、ジャンマダン(市場)に頼ってその日暮らしをしていた人々が死んだ。金や食糧の貯え少なくて、封鎖に耐えられない人々が現れ始めたのだ。

「最初は封鎖が解除されれば大丈夫だろうという考えでしたが、その日暮らしをする人たちは(封鎖が)あまりにも長く続くので耐えられませんでした。わずかな財産を売って、一食を得た人も多かったのです。住民も大変でしたが、国もすごく大変だったと思います」

結局、全面封鎖を実施してから1カ月後の2022年6月12日に封鎖は解除された。しかし、すでに多くの犠牲者が出た後だった。1カ月間の全国封鎖以後、現金の枯渇によって食糧を買えない人々が本格的に増え、コロナの後遺症まで重なって犠牲者はさらに増えた。

次の記事では、パンデミック期で最も深刻な人道危機に見舞われ、凶悪犯罪も横行した2023年春の様相と背景について報告する。 (続く>>)

北朝鮮地図 製作アジアプレス

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