2023年冬、ある懇談会の場で、私は初対面の参加者たちとの会話を楽しんでいた。近年は西サハラ関連の取材を続けてきたと話すと、「そういえば、西サハラの人が来日できなくなったと聞きましたよ。ビザが出なかったって」と言われた。単なる噂話ではない。事実だ。(岩崎有一/写真は出典を記したものを除きすべて筆者撮影)

西サハラのタブー化に加担する日本外交の異様(1) JICAも大企業も 教科書には載せられない破廉恥な地図

◆ビザ発給を拒否

日本の支援者からの贈り物を私に見せるハビーブ・ケンタウィ氏。ポリサリオ戦線のアジア代表として1991年に来日している。今回ビザが拒否されたのは彼ではない。(西サハラ解放区・チーファーリーチー/2019年12月24日撮影)

2023年、西サハラ住民が建国したサハラ・アラブ民主共和国(SADR)の高官が来日しようとしていた。しかし、外務省はビザ発給を拒否。来日は叶わなくなった。

日本がSADRを承認しない姿勢はその建国以来一貫しているが、30年以上前からSADR高官たちは何度も来日している。これまでに各地で、勉強会や交流、議員との面談など、西サハラを知り学ぶ場が持たれてきた。私の知る限り、SADR高官の来日が拒否されたのはその時が初めてのことだ。

 

 

 

◆西サハラ関連イベントは“政治活動” JICAは施設利用申請を不承認

JICA中部から名古屋NGOセンターに届いた施設利用不承認書(名古屋NGOセンターウェブサイトより)

西サハラ関連イベント開催が不承認とされるできごともあった。

特定非営利法人名古屋NGOセンターは2023年9月、国際協力機構中部センター(以下JICA中部)が管理するなごや地球ひろばのセミナールームの施設利用申請をした。「西サハラ全国キャラバン2023 in 名古屋:いつか自由で平和な祖国へ! サハラーウィ難民キャンプからの報告」を開催予定だった。

JICA中部はこの施設利用申請を「政治活動(公開質問状より引用)」を理由として不承認に。名古屋NGOセンターは公開質問状をJICA中部に送るも、撤回の意向なしと回答された。西サハラの理解を深めようとの催しは政治活動であり、それはJICAとして許せないものだと表明されたことになる。
本件に関するやり取りは、今も名古屋NGOセンターのウェブサイトで公開されている。

◆続けられてきたモロッコ大使館の抗議

G7開催地となった広島市で西サハラ支援緊急記者会見を開いたベンジャミンさん(右)とサナさん(2023年5月23日撮影)

モロッコから国内メディアへ向けた圧力も存在する。

2023年5月20日、G7開催中の広島で、西サハラ支援を訴えるためにスウェーデンから来日したベンジャミンさんとサナさんによる緊急記者会見が開かれた。質疑応答の際、会場参加者の前でNHKの解説委員が手を挙げ、心情を吐露した。

「西サハラ問題を取りあげたいとは思っているが、西サハラに言及するたびにモロッコ大使館からの抗議がくる。数年前も西サハラを取りあげた際に同大使館からの抗議があった。こういうことが繰り返されると萎縮してしまうという現状もある」

他のメディアからも、西サハラ問題の現状を伝えるとモロッコ大使館から抗議が届くとの声を聞く。

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