6年前の第7回アフリカ開発会議(TICAD7)でサハラ・アラブ民主共和国(SADR)の代表団(以下、西サハラ代表団)が初来日したが、会議場で発言の機会は与えられなかった。今年開催のTICAD9では、日本の圧力によって会議場以外での発言機会も許されない格好となった。西サハラ代表団の声と、日本の対西サハラ外交の姿勢、忖度の背景をまとめた。(岩崎有一/写真はすべて筆者撮影)

◆「日本政府の態度は、中立というより、むしろ行きすぎたもの」

2023年に聞いたブラヒム・ガーリーSADR大統領の声は、今も違和感がない。

「なぜ日本は私たちを無視するのでしょうか。私には理解できません。(中略)私たちに対する日本の対立姿勢は、極めて厳しいものでした。その対立姿勢は、ときには、(西サハラを軍事占領する)モロッコよりも厳しかったとさえ言えます」

今回は、西サハラ代表団のTICAD外での活動自粛すら求められた。厳しさは増している。

<西サハラ>ガーリー大統領に面会 日本のモロッコ寄りの姿勢を批判

◆モロッコは日本に汚れ仕事を強要

ブシャラヤ・ハムディ・バイユンSADR首相(横浜・TICAD9会場周辺にて2024年8月19日撮影)
過剰な警護に囲まれTICAD9会場を移動中のブシャラヤ首相とベイサット外相(横浜・TICAD9会場にて2024年8月21日撮影)

8月19日、TICAD9参加のため来日したブシャラヤ首相に直接話を聞いた。

「モロッコは常に、西サハラに関する汚い仕事を日本に強要しています。日本はモロッコに対し、これ(西サハラ代表団の参加)はアフリカ連合(による決断)なのだと言えるはずです。(中略)
モロッコは常に(西サハラがTICADに参加しないよう)多くの障害を設けようとしてきました。ですが結局、私たちは参加しています。なぜならモロッコはAUに西サハラを排除させるよう強制することはできないからです。(中略)
今、日本政府は妥協的な立場を取っているのだと思います。しかし我々の目には、日本政府の態度は中立というより、むしろ行き過ぎたもののように映ります。日本は金銭にばかり関心を持っているように見えます。(中略)
モロッコに問題があるならば、それはまずAUにおいて解決されなければなりません。その問題の解決に、日本が加わる必要はないのです。」

◆日本は表向きでは常に中立中道の姿勢を見せてきたが…

「我が国としては、西サハラ問題は、国際連合の枠組みの下、当事者間の交渉により早期に平和裡に解決されることが重要との立場であり、国際連合による仲介努力を支持している」
(2016年11月21日臨時国会での答弁書より)

「日本政府は西サハラ地域のモロッコへの帰属を認めていない」
(2022年度「第2回ODA政策協議会」での外務省の回答より)

「(西サハラ問題について)積極的な行動予定はない」
(2020年3月16日 超党派議員による第2回西サハラ難民勉強会での外務省のコメントより)

西サハラをモロッコ領とする地図を使う経産省のプレゼンテーション(横浜にて2024年7月31日撮影)

西サハラ問題において日本は、国連の仲介努力を支持し西サハラのモロッコ帰属を認めず、本件についての積極的な行動はせず、西サハラ代表団のTICAD参加は黙認するとの立場をとってきた。

いっぽう、西サハラの存在を隠した地図や、西サハラをモロッコ領とするような地図を政府機関や大手企業が使い、講演のような西サハラを知る場には圧力がかけられている。西サハラ問題の当事者が話す機会も許されなくなりつつある。西サハラをめぐる日本の姿勢は、中立的と感じられる公の答弁内容とは程遠い。メディアにはモロッコからの圧力もかかる。

 

 

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