◆「戦争のない日が来ることを願うばかり」

幼稚園児のアントンくん(7)は、お絵描きが大好きだ。

「みんなと遊んだり、勉強したりできる。いつも楽しい」
どんな遊びが好きなの、と私が尋ねると、

「石、はさみ、紙の遊び」

と答えた。じゃんけんだ。

ウクライナでは、「1、2、3」の掛け声だが、私が「じゃーんけん、ぽんッ」とやると言うと、彼はすぐにわかった。勝った彼は、笑顔いっぱいだ。

ウクライナでもロシアでも、日本と同じ「じゃんけん」がある。こちらではそのまま「石、はさみ、紙」と呼ぶ。アントンくんに、じゃんけんぽん、とやると、ちゃんとわかってくれた。(2025年4月・クラマトルスク・撮影・アジアプレス)

昼過ぎ、アントンくんの両親が迎えにやって来た。父のボグダン(31)さんは警察官。近所の子どもたちはあいついで遠方の町に避難した。アントンくんは親以外に話す機会がないため、学童園に通わせるようにした。

「毎日通うようになってから、言葉や表現を覚え、感情も豊かになりました。とくに同じ年齢の子と話し、学び、遊ぶなかで、社会性が身についたと感じます」

アントンくんの父、ボグダンさんは警察官。「学童園に通うようになってから、言葉や表現を覚え、感情も豊かになった」と話す。母、マーシャさんは毎日が不安という。(2025年4月・クラマトルスク・撮影・玉本英子)

母のマーシャさん(30)にとって、心が安らぐ日はない。

「とくに夜は怖い。ミサイル、誘導爆弾、自爆ドローンが飛んでくるのです。そのたびに家の地下室に駆け込みます。子どもたちのためにも、こんな戦争のない日が来ることを願うばかりです」

戦況がさらに厳しくなれば、家族で別の町に避難することも検討しているという。

2022年の侵攻直後にミサイル攻撃で破壊された学校。学校も安全ではなく、ウクライナではオンライン授業か、地下シェルターが設置してある学校は登校しての対面授業が続く。(2025年4月・クラマトルスク・撮影・玉本英子)
破壊された校舎の瓦礫の下にあった写真。クラスの行事の記録がつづられていた。校舎だけでなく、思い出も壊された。(2025年4月・クラマトルスク・撮影・玉本英子)

◆心に傷を負う子どもたち

国連児童基金(UNICEF)によると、2022年2月の侵攻以降からこれまでに、被害を受けたり、破壊されたりした学校は全土で1611校にのぼる。(UNICEF報告・2025年11月)

子どもたちは戦争が起きていることを理解している、と学童園のオプシェコヴァ代表は話す。
「家を失い、家族が離れ離れになる。仲良しの友達が避難して引っ越していく。毎日、爆弾の音がする。自分のまわりで何が起きているのか、子どもたちは敏感に感じとっています。たとえ親が気づいていなくても、どの子も心に傷を負っています。そして、それは蓄積されています」

多くが町から避難し閑散としたなか、一部にまだ残る住民もいる。その多くは高齢者だ。このほか、警察官、公務員、インフラ技術者や工場労働者らとその家族も暮らす。(2025年4月・クラマトルスク・撮影・玉本英子)
ロシア軍が15~20キロ圏内まで迫ると、軍政局は状況に応じ、子どもと保護者に避難指示命令を出す。母親とともに避難し、父親だけ残るという例も。クラマトルスクは10月に避難指示が出たが、現地からの情報では、まだ残っている子どももいるという。(2025年4月・クラマトルスク・撮影・玉本英子)
ウクライナ東部ドネツク州クラマトルスクは、ドネツク、マリウポリ両市がロシア軍に掌握されて以降、「暫定州都」が置かれている。ロシア軍はクラマトルスクから20キロ圏内に迫った。(地図作成:アジアプレス)

前線に近い地域では、ロシア軍が15~20キロに迫ると、軍政局から子どもの退避指示が出される。17歳以下の子どもは保護者と別の町に避難することが求められる。戦況や複数の要素から指示の発令が判断されるが、その目安の一つが、小型の自爆攻撃ドローンの航続距離だ。ロシア軍が20キロ圏内に迫ったクラマトルスクでは、10月に子どもの避難指示が出た。だが、まだ家族とともに残っている子どももいるため、学童園は運営を続けている。

10月、北東部ハルキウでは、幼稚園があった建物に自爆ドローン・シャヘドが炸裂し、爆発とともに火災が発生。シェルターに退避していた園児らは救出されたが、大人1人が死亡、9人が負傷した。子どもが通う施設も安全ではない現実がある。(2025年10月・ハルキウ・国家非常事態庁DSNS映像)

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