◆日本の最前線化・戦場化を想定した「安保3文書」による大軍拡

政府は2022年12月に岸田文雄政権(当時)が閣議決定した「安保3文書」(「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」)にもとづき、「専守防衛」を逸脱して、他国を先制攻撃もできる長射程ミサイル(射程1000~3000キロ)の導入など、敵基地・敵国攻撃能力の保有を柱とする大軍拡を進めている。

長射程ミサイルによる敵基地・敵国攻撃能力の保有を、政府は「反撃能力の保有」と言い換えて、その目的を「抑止力の向上により国民の生命と平和な暮らしを守るため」と説明し、正当化する。

しかし、「抑止力の向上」を大義名分に軍拡を進めれば、仮想敵国とされた側はそれを脅威と見なし、対抗して軍拡を進める。相互に抑止を掲げながら結果的に脅威を与え合い、軍拡競争を招いて緊張と対立を煽り、抑止どころかかえって戦争を誘発するリスクが高まる。これを「安全保障のジレンマ」という。

宮古島の陸上自衛隊駐屯地の12式地対艦誘導弾(ミサイル)を搭載する車両と自衛隊員(2023年12月5日撮影)

高市首相は昨年(2025年)11月7日の衆議院予算委員会で、中国が台湾を海上封鎖して戦艦(軍艦)が武力行使した場合、集団的自衛権の行使が可能な「存立危機事態」になり得るケースだという危うい答弁をした。

それは、中国が日本を攻撃してもいないのに、自衛隊が米軍とともに参戦し、中国に戦争を仕掛けることを意味する。そうなれば中国からの反撃を受け、全面戦争にエスカレートし、破滅的な戦禍を招き寄せることになる。「相互不可侵、紛争の平和的解決、武力や武力による威嚇の不行使」などを定めた日中平和友好条約(1978年)を、日本側から破ることにもなる。

戦後、首相が具体的な国名を挙げて参戦の可能性を口にしたのは前代未聞で、危険きわまりない見解である。高市首相は発言を撤回すべきなのだが、かたくなに拒み、反発する中国との関係を緊張させ、悪化させている。

浜田靖一防衛大臣(当時)は2023年2月6日の衆議院予算委員会で、政府が「存立危機事態」における集団的自衛権の行使を決定し、自衛隊がミサイルなどで敵基地を攻撃した場合、「事態の推移によっては他国からの武力攻撃が発生し、被害を及ぼす可能性がある」ことを認めた。まさに政府は、日本がアメリカの戦争に加担した結果、戦禍が日本に及ぶことも想定しているのである。

昨年3月、米トランプ政権のヘグセス国防長官は中谷元防衛大臣(当時)との会談後の共同記者会見で、台湾有事を念頭に「西太平洋におけるあらゆる有事に直面した場合、日本は最前線に立つことになる」と断言した(『朝日新聞』2025年3月31日朝刊)。

まさにアメリカは日本に戦争の覚悟を求めて、対中国戦の矢面に立たせ、戦火に巻き込むことも計算に入れ、中国の台頭を抑え込む戦略を立てている。日本全土が戦場となって戦禍を被り、犠牲を強いられ、アメリカの戦略の捨て石にされるおそれが高まる

しかし、中谷大臣も、石破首相(当時)も、この発言に反対も抗議もしなかった。それは日本の最前線化すなわち戦場化と、国民・市民が犠牲を強いられることを黙認したに等しい。
高市政権の大軍拡路線もその延長線上にある。(つづく)

吉田敏浩(よしだ・としひろ)1957年、大分県出身。ジャーナリスト。著書に『ルポ・軍事優先社会』(岩波新書)、『「日米合同委員会」の研究』(創元社)、『横田空域』(角川新書)、『昭和史からの警鐘』(毎日新聞出版)など。

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