◆「砲撃用意、発射!」
そのとき、指揮部隊から連絡が入った。「砲撃せよ」との命令だ。
兵士たちは一斉に立ち上がり、退避壕を駆け上がる。暗闇のなか茂みを進むと、赤いライトに照らされた大砲が浮かび上がった。2A65 榴弾砲 ムスタ-Bだ。昨年、別旅団のD-20榴弾砲を取材したが、ムスタ-Bはその後継としてソ連時代に開発された。D-20よりひとまわり大きく、射程も20km以上ある。この拠点はロシア軍から5kmの地点なので、かなり遠方に食い込んで撃ち込めることになる。一方、ロシア軍も同様に、このムスタ-Bを使う。

砲手たちは、手際よくムスタ-B に152ミリ榴弾を装填した。
「大砲、発射!」の声があがる。
赤い閃光とともに、ドーンとすさまじい音。体が地面にめり込むような衝撃だ。


「砲全体を偽装し、ただちに撤収!」
兵士たちは、木の葉に似せた偽装網で大砲を覆い、退避壕に駆け込んだ。
いま彼らが撃った先には、ロシア兵がいる。あの砲弾が誰かを殺したのではないか。そんな思いがよぎった。ウクライナの地に侵攻したのはロシア軍だ。だがそれを命じ、兵士を戦場へと駆り立てたのはロシアの指導者である。そして国際社会は、この戦争を止めることができぬままだ。戦い続けなければならないウクライナ兵たち。やりきれない気持ちになった。

退避壕の無線機のわきに、ありあわせの布を重ねて作った小さな人形が括り付けてあった。幸運と厄除けの願いが込められたウクライナ伝統のお守り、モタンカ人形だ。彼らが家族のもとに帰ることができる日は、いつになるのか。


※取材時から少し時間が経過しての掲載ですが、部隊配置などの情報を考慮して時間差が出ています。また任務中の兵士はフルネームが出せない場合があり、兵士のコールサイン(ポズブノイ)名で表記することがあります。























