◆「砲撃用意、発射!」

そのとき、指揮部隊から連絡が入った。「砲撃せよ」との命令だ。

兵士たちは一斉に立ち上がり、退避壕を駆け上がる。暗闇のなか茂みを進むと、赤いライトに照らされた大砲が浮かび上がった。2A65 榴弾砲 ムスタ-Bだ。昨年、別旅団のD-20榴弾砲を取材したが、ムスタ-Bはその後継としてソ連時代に開発された。D-20よりひとまわり大きく、射程も20km以上ある。この拠点はロシア軍から5kmの地点なので、かなり遠方に食い込んで撃ち込めることになる。一方、ロシア軍も同様に、このムスタ-Bを使う。

榴弾砲ムスタ-Bに砲弾を装填し、拉縄(りゅうじょう)と呼ばれるロープを引き、発射。(2025年4月・クプヤンシク前線・撮影・玉本英子)

砲手たちは、手際よくムスタ-B に152ミリ榴弾を装填した。

「大砲、発射!」の声があがる。

赤い閃光とともに、ドーンとすさまじい音。体が地面にめり込むような衝撃だ。

発射の瞬間、赤い閃光とともに轟音が轟く。(2025年4月・クプヤンシク前線・撮影・玉本英子)
砲撃のあと、すぐさま偽装網をかぶせ、退避壕に撤収する砲兵たち。発射直後は、ロシア軍に位置を特定され狙われることがある。(2025年4月・クプヤンシク前線・撮影・玉本英子)

「砲全体を偽装し、ただちに撤収!」
兵士たちは、木の葉に似せた偽装網で大砲を覆い、退避壕に駆け込んだ。

いま彼らが撃った先には、ロシア兵がいる。あの砲弾が誰かを殺したのではないか。そんな思いがよぎった。ウクライナの地に侵攻したのはロシア軍だ。だがそれを命じ、兵士を戦場へと駆り立てたのはロシアの指導者である。そして国際社会は、この戦争を止めることができぬままだ。戦い続けなければならないウクライナ兵たち。やりきれない気持ちになった。

過酷な状況のなか、戦い続けなければならないウクライナ兵たちを前に、やりきれない気持ちになった。(2025年4月・クプヤンシク前線・撮影・アジアプレス)

退避壕の無線機のわきに、ありあわせの布を重ねて作った小さな人形が括り付けてあった。幸運と厄除けの願いが込められたウクライナ伝統のお守り、モタンカ人形だ。彼らが家族のもとに帰ることができる日は、いつになるのか。

無線機のわきにあった手作りの小さなモタンカ人形。幸運と厄除けと願う、ウクライナ伝統のお守りだ。(2025年4月・クプヤンシク前線・撮影・玉本英子)
ハルキウ州クプヤンシク(クピャンスク)ではロシア軍との激しい攻防が続く。地図は2025年12月下旬時点の状況。市内の一部にはロシア軍が到達。ロシア側は「町を制圧」などとしている。(地図作成・アジアプレス)

※取材時から少し時間が経過しての掲載ですが、部隊配置などの情報を考慮して時間差が出ています。また任務中の兵士はフルネームが出せない場合があり、兵士のコールサイン(ポズブノイ)名で表記することがあります。

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