◆葛藤と苦悩

2月、ホワイトハウスでトランプ大統領は、ゼレンスキー大統領に向かってこう言った。
「君は何百万もの命を賭けて第3次世界大戦のギャンブルをしている」

「君たちは兵士が不足しているではないか。停戦を望んでいないのか」

せっかく仲介してやってるのに、ウクライナ側が停戦を望まないから難航しているかのような物言いだった。激しい口論となった会談の直後、ウクライナ国内では一時的にではあるがゼレンスキー大統領の支持率が上がったという。誰よりもこの戦争をやめたいのは、多大な犠牲を強いられているウクライナの人びとである。それでも、これ以上の侵攻を食い止めるために戦わざるを得ない葛藤のなかで、兵士も市民も苦悩している。

最後に、ヴラッド砲手に聞いてみた。

プーチンに言いたいことはありますか?

「くたばれ」

私は、もうひとつ付け加えた。

では、トランプに言いたいことはありますか?

「えっ、それは… うーん、何か言えったって、どう言えばいいんだ…」

困惑する彼に、周りの兵士たちは大笑いした。

ホワイトハウスでのあの会談がまだ記憶に新しい時だっただけに、誰もがアメリカに対しての心情は複雑だ。そんなアメリカに頼らざるを得ない現実がある。

クプヤンシクに展開するウクライナ部隊は、厳しい状況に直面している。(2025年4月・クプヤンシク前線・撮影・アジアプレス)
12月下旬、部隊への功績を称えられ、他の兵士とともに第15作戦任務旅団のオレクサンドル・ブカタル司令官から勲章を授与されるヴラッド砲手(右)。(2025年12月・旅団公表写真)

12月下旬、旅団司令部は、任務での功績を称えて、15人の兵士に勲章を授与した。その様子を伝える写真のなかに、ヴラッド砲手がいた。私は嬉しかった。勲章のことより、彼が生きていたとわかったからだ。兵士たちが、無事な姿で家族と再会できることを願うばかりだ。

砲兵拠点からの帰り道。雲の隙間から顔を出した月の明かりが、農道を照らしていた。

無線機に指揮班から入電があった。ウクライナ側の偵察ドローンが、ロシア軍に落とされたという。敵のドローンに突っ込んでいって地面に落とす「体当たり戦術」もよく使われる。一帯は、ロシア軍ドローンが飛来する圏内だ。(2025年4月・クプヤンシク前線・撮影・玉本英子)
カメラの感度を上げているので明るいようだが、実際には曇り空からもれるかすかな月明り程度。砲兵拠点から移動する際、トラックの荷台に乗った兵士はドローンを警戒してずっと空を見上げていた。(2025年4月・クプヤンシク前線・撮影・玉本英子)

 

※ 取材時から少し時間が経過しての掲載ですが、部隊配置などの情報を考慮して時間差が出ています。また任務中の兵士はフルネームが出せない場合があり、兵士のコールサイン(ポズブノイ)名で表記することがあります。

 

 

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