◆都市住民の購買力低下…深刻な販売不振

一方、地方管轄の企業(工場)はどうか。先に述べたように、金正恩政権は「企業責任管理制」を導入し、企業に経営の裁量権を与えると同時に、結果に対する責任も負わせた。企業は自ら確保した財源で原材料を仕入れ、生産・販売し、その利潤で労働者に労賃を払い、食糧供給までさせようという制度設計だ。

しかし、現状について協力者は次のように説明する。

「元帥様(金正恩氏)の方針を貫徹するためだとして、地方(管轄)工場には国家が資金を提供して、貿易局と市・郡党も支援している。でも、どれだけいいモノを作ったとしても、現金が(市場に)流通していないから難しいのが現状だ」

つまり、地方管轄の企業も経営不振に苦しんでいるが、その背景には都市住民の購買力が著しく低下していることがあるということだ。生産品を国営商店に並べても、住民に金がなく売れないというわけだ。金正恩政権はコロナ・パンデミックを機に、商売などの個人の経済活動を厳しく制限し、都市住民の現金収入が急減した。さらには深刻なインフレーションも追い打ちをかける。アジアプレスの最新調査(2026年8月28日)によると、一般労働者のひと月の平均的な労賃(約5万ウォン)では、トウモロコシを2.9キロしか買えない状況だ。
※朝鮮1万ウォンは約23.8円(2026年8月28日現在)

そのため、生産をしてもモノが売れず、原価も回収できずに大多数の地方管轄の工場が資金難に陥っているという。協力者は「結局、利益が出ないため、生産を減らしたり中止したりしている」と話す。また、国内向けの生産品を中国に輸出しようという動きが活発になっている。これについては、別の回で説明したい。

◆パン、ビールの生産、労働者派遣に活路

こうした中、地方管轄工場が見出した活路のひとつが、「副業」だ。財源確保のため、工場内で本来の生産品目ではないモノの生産が盛んだという。

代表的な品目はパンやビールだ。協力者は、「地方(管轄)工場でうまくいっているのはパンだ。今では統制が厳しくなって個人がパンを作って売ることができないので、工場で生産されるパンを買うことが多い。他の企業が購入して労賃や食糧代わりにパンを支給したりする場合もある。道端でパンの袋を持って歩く人をよく見かけるようになった」と話す。

建設現場や砂金採掘現場への労働者派遣も盛んだという。両江道の協力者は次のように実態を説明する。

「例えばクムウンサン貿易会社がアパート建設しているが、以前だったら働き口を探す労働者と個人契約をして昼食を提供し、(労働者本人に)1日1万ウォン程払っていた。今は、企業と契約をして労働者を派遣してもらっている。労働者は建設が終わるまで現場に動員される。労働者には昼食と夕食を提供し、(労働者一人当たりの)日当2万ウォンは企業に払っている」

かつては、建設企業は職場外での働き口を探す労働者を直接雇用し、日当を支払うのが日常だったが、個人の経済活動が統制された今、職場にいても仕事がない労働者を企業が組織的に派遣して稼いでいるのだ。協力者によると、建設現場への動員で労働者本人に支払われるのは月2万ウォンほどだという。

次回は、労賃や内職など、都市住民の収入水準について詳報する。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

北朝鮮地図 製作アジアプレス

 

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