金正恩政権は今年に入り、「無現金化」(キャッシュレス化)を強力に推進している。国営商店などで電子決済設備の導入が進んだものの、地方都市では頻繁な停電により決済カードがろくに使用できない状態だという。咸鏡北道(ハムギョンブクト)会寧(フェリョン)市の取材協力者が7月下旬に伝えてきた。(洪麻里/カン・ジウォン

朝鮮貿易銀行の電子決済カード「ナレ」。2010年に外国人を対象に発行されたが、現在は北朝鮮住民も使用可能だ。中国人旅行者提供

◆暑さと湿気で電子決済機がショート

国境の川・豆満江の向こう側に広がるのが会寧市だ。2012年8月に中国側から撮影(アジアプレス)

アジアプレスは今年3月の記事で、北朝鮮当局が3月から国営商業施設や企業間取引での現金使用を原則禁止し、電子決済への切り替えを強制的に進めていることを報じた。「郡や農村に至るまで全国的に推進せよ」という方針だった。5カ月経った今、現状はどうなのだろうか。

会寧市の取材協力者は、最近の電子決済事情について以下のように伝えてきた。

「7月23日にオサンドク洞にある電子決済機でショートする事故があり、設備が故障して当分の間、ナレカード決済ができなくなった。最初は放火を疑って情報局(秘密警察、元保衛局)と安全局(警察)が調査したが、暑くて湿度も高いことが原因だったらしい。扇風機を回して(機械の)熱を冷やすのだが、小さな都市ではカード利用者が多くなく、管理が行き届かず問題がしょっちゅう起こるのだと思う」
※ナレカード=朝鮮貿易銀行が2010年に発行を開始したカード

国境の川・豆満江の向こう側に広がるのが会寧市だ。2012年8月に中国側から撮影(アジアプレス)

◆「都市ではコード決済も発達しているのに…」

結局、背景にあるのは電力難だ。アジアプレスの複数の取材協力者は、6月に実施した調査で「北部地域では今も1日に2~3時間ほどしか電気がこない」と報告している。

電子決済システムを動かすための電力について、金正恩政権は「商業施設が自ら解決せよ」と求めている。しかし、取れる対策といえば、国営工場に優先的に供給していた電力を国営商店に回したり、太陽光パネルを設置させたりする程度であった。

他方、大都市での状況について協力者は「清津(チョンジン)、金策(キムチェク)、吉州(キルチュ)、咸興(ハムン)ではカードを使わないのは遅れている人とみなされるほど、現金を持ち歩く人がいない。コード決済も発達していて、大都市との差がどんどん開いていくようだ」と話す。

会寧市は朝中国境の豆満江流域では人口の多い都市のひとつだ。現金使用をなくし電子決済に移行させるのが当局の方針であるにも関わらず、会寧市ですらこうした状況であるということは、金正恩政権が地方の電力インフラ投資を後回しにしてきた証左でもある。他の中都市でも似たような状況であると推測される。

※アジアプレスでは中国の携帯電話を北朝鮮に搬入して連絡を取り合っている。

<北朝鮮内部>現金使用を原則禁止へ 国営商店と企業取引に電子決済を強制、キャッシュレス化を強引に推進…通貨ウォンは下落

北朝鮮地図 製作アジアプレス

★新着記事