中国側から鴨緑江越しに撮影した恵山市の市場。生き延びるために蠢く北朝鮮民衆の姿が見える。(石丸次郎撮影)

 

02年夏以来の経済大混乱の結果、03年4月から公式に「市場」を認め、限定的だが自由な商行為を認めざるを得なくなった金正日体制。生産活動がほとんど麻痺している中で、民衆は生き延びるため、あるいは巨富を求めてひたすら商売に勤しむ。
一方で急速に貧富差が拡がり、一部の農村では餓死者を出すまでに貧窮を極めているという。

◆「密輸特区」恵山
03年の晩夏、数本のビデオテープが北朝鮮から国外に持ち出された。
撮影したのは中国と行き来する脱北者の青年(安哲氏)。場所は鴨緑江を挟んで中国と接する両江道・恵山(リャンガンド・ヘサン)市であった。

ビデオを見てまず驚いたのは、恵山市内に拡がる凄まじい数の露店であった。路地や川べりに延々と続くみすぼらしい「露店の大群」では、米や、菓子、野菜 、果物などの食品はもちろん、衣服から電球、ソケット、コンセント、バッテリー、モーターなどの雑貨、そしてアイスキャンデー(!)まで売られている。まるで市場の中に都市があるのではないかと錯覚を覚えるほど、活況を呈していた。

鴨緑江を挟んで吉林省長白朝鮮族自治県と向き合うのが、中朝国境最大の密輸都市・両江道恵山市(石丸次郎撮影)

しかし、この溢れんばかりの物資は、いったいどこからもたらされ、誰が買っていくのだろうか?経済が破綻状態の北朝鮮では、消費物資の生産は実質的にはほとんどストップしている。また、食糧危機が続き貧困に喘ぐ北朝鮮民衆に、これらの物資を買う金があるのだろうか?

去る9月、私は中朝国境地帯に赴き、難民、密輸屋など、北朝鮮から越境してきて間もない10人の北朝鮮人に集中インタビューした。北朝鮮の市場の謎と最新事情を取材するためである。
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