2009年12月4日に公開された新通貨は5000ウォン紙幣から1銭硬貨まで全14種類。(朝鮮中央通信より)

2009年12月4日に公開された新通貨は5000ウォン紙幣から1銭硬貨まで全14種類。(朝鮮中央通信より)

 

二〇〇九年一一月三〇日、「北朝鮮全土で『貨幣交換』=デノミネーションが一斉に始まった」という第一報が韓国メディアを通じて世界に発信された。通貨ウォンを一〇〇分の一に切り下げる措置を、北朝鮮当局は国民に何の予告もなく突然断行したのだった。

電撃的に実施されたこの「貨幣交換」措置の目的は? 北朝鮮社会にどのような影響を及ぼすことになるのか? 後継者問題との関連は? 突然のデノミ実施に、世界は俄然注目することになった。その後北朝鮮内部から伝わってくるのは、とめどない物価の高騰と食糧不足の深刻化であった。

「貨幣交換」が強行されて一ヶ月余りが過ぎた二〇一〇年一月、リムジンガン編集部は朝中国境に向かった。北朝鮮内部の取材パートナーたちと会い、「貨幣交換」の混乱を北朝鮮国内で実際に体験した人たちの声を取材するためである。残念ながら内部の記者たちが中国に出てくることは、国境の警備が厳しく、かなわなかったが、合法・非合法に国境の川を越えて中国に来た女性たちに会うことができた。

北朝鮮でデノミはどのように行われたのか、そして、民衆はそれをどのように受け止めたのか、突然のデノミを断行した金正日政権の意図は何だったのか。最新情報をまとめた。

取材 石丸次郎/リ・ジンス

ドキュメント デノミ断行の衝撃 その時民衆は(1) 整理 リ・ジンス
この度のデノミ=「貨幣交換」は、ほとんどの北朝鮮民衆にとってはまさに寝耳に水であった。汗水たらして稼いだ金が、新しい貨幣に取って代わって、無効になるのだから、生活に大きな混乱をもたらしたことは想像に難くない。突然この措置が断行された時、北朝鮮の民衆はどのように行動したのだろうか。朝中国境地帯で取材した三人の女性の証言と、取材協力者の提供してくれた情報をもとに、北朝鮮内部の混乱について振り返ってみたい。

人物紹介
ケさん――両江道恵山(ヘサン)市に住む五〇代の女性。家畜や農作物を市場に売って生計を立てている。以前は中国との密輸も積極的に行っていた。「貨幣交換」後の一二月に中国へ合法入国。「貨幣交換」は恵山で迎えた。

カンさん――慈江道江界(カンゲ)市の近郊に住む五〇代の女性。夫と子供二人の四人で暮らし。普段は生活雑貨の商売をしている。一二月に中国へ親族訪問で合法入国。「貨幣交換」は江界市で迎えた。今回の貨幣交換により莫大な損失を被った。

ウさん――咸鏡北道会寧(フェリョン)市に住む三〇代の女性。姉夫婦の家に住んでいる。一二月初旬に中国へ非合法に越境。「貨幣交換」は会寧で迎えた。
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