90年代末に先軍時代を宣布して以来、金正日は側近と軍部隊を訪問する回数が急増した。ポスト金正日体制に軍が関与できるのかどうか、現段階では未知数だ。(わが民族同士HPより)

90年代末に先軍時代を宣布して以来、金正日は側近と軍部隊を訪問する回数が急増した。ポスト金正日体制に軍が関与できるのかどうか、現段階では未知数だ。(わが民族同士HPより)

三代世襲は困難 「後継問題」に直面する北朝鮮政権 3
リュウ・ギョンウォン

権力後継が困難な八つの理由(承前)
[4]不安定で人民の支持がない「先軍政治」を継承するハイリスク
朝鮮では一九八〇年の第六次党大会以降、執権政党の党大会が開催できないという異常事態が二八年間続いている。
この二八年間の朝鮮の政治は、党と軍が周期的にかわるがわる攻撃にさらされるということを繰り返してきた。つまり、党と軍のどちらか一方に実勢が偏る特徴があるのだ。

現在は「先軍」の時代だ。
その準備のために一九九〇年代後半に党が攻撃された。逆に一九九〇年代前半は、軍がひどく粛清された。今度は、また軍が攻撃を受ける番となる可能性がある。
普通、軍が権勢を振るう期間は相対的に短い。そうならざるを得ないのは、軍があまり長期間実権を握ると、朝鮮では国家経済と組織生活の体系が後退し、それによって軍も補給線が途切れてしまうからだ。

しかし、現在の先軍政治がなかなか退場しないのは、軍がこれまでに前例のない、国家を経ずに権益を自分たちの懐に直接抱え込む、いわゆる「自力更生補給体系」(注1)を獲得したためである。

この軍部の経済は生産に役立たない消費経済である。
一九八〇年代に国家が改革開放を円満に行い軍に対する補給能力を喪失していなければ、金正日が軍の統帥権を握ろうが握るまいが、党が軍を統率していればよく、先軍政治は必要なかったはずだ。

今の先軍時代に対する人民の評価は「人民を見捨て、軍隊しか知らない」という点数の低いものだが、金正日は「私にどのような変化も期待するな」と言い放って変わることを拒否し、依然として先軍政治を声高に主張している。

本来、人民を導くものは軍ではなく党のみである。党大会を開催し、社会の平穏を保障しなければ人民の暮らしも経済も再生できない。
つまり、先軍政治を朝鮮の人民が支持する状況では全くないのである。

人民の支持を失っている先軍政権を継承するというなら、その先には極めて大きな困難が待っていると考えるべきだ。
朝鮮では強力な独裁政党が存在しているのに、非正常的に軍部が勢力を得ていて人民は見捨てられている。

そんな不安定な体制を継承するというのは、あえて困難を継承するようなものだと言っても言い過ぎではない。
国内的には、先軍政治とは以上のような不安定極まりない体制である。

そして国際政治においても、朝鮮の先軍政治はどれだけ厄介な問題を抱えてしまったことか。
その筆頭は核兵器の問題である。

韓国はもちろんのこと、米国や中国、ロシア、欧州そして日本の関心は核問題に集中している。将来、朝鮮周辺地域の「核軍拡競争」を呼び起こすかもしれない。
核問題によって引き起こされるややこしい事態に対し、金正日の後継者は当然向き合っていかねばならないはずだ。困難だらけで展望のない未来が待ち受けている、そんな体制の後継者候補に一体誰がなりたがるだろうか。

(つづく)

注1 軍は傘下に外貨獲得のための貿易会社、漁業会社などの事業体を数多く持っている。先軍時代に入った九八年頃からこういった事業体が急増したが、内部記者の報告によると、〇八年には整理統合が始まった模様である。はっきりした理由は不明だが、増殖した軍の利権が、他の政治勢力の巻き返しによって浸食されている気配が窺える。この点に関しては改めて取材・報告したい。
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2011年12月19日の北朝鮮の官営メディアによる金正日総書記の死去発表からはや50日。北朝鮮国内では、軍の最高司令官となった金正恩氏が連日「現地指導」を行うなど、後継作業が急ピッチで進んでいる。

だが、金正恩氏が父が握っていた絶対的な独裁権力を継承できるかどうかは、まだ未知数である。
本特集では「三代世襲」を論じた過去のアーカイブ記事を通じ、金正恩氏が現在直面している、そして今後直面するであろう問題を、再び読み解いていきたい。
果たして「金正恩時代」は来るのであろうか。

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