あれこれ考えず、とにかく義務を果たさねばならない、と自分に思い込ませているようです。しかし、大義のない戦争に駆り出された兵士達の規律は必ず乱れます。それは日中戦争でもアジア太平洋戦争でも同じです。

何故自分はここに来ているのか、何故自分は命を懸けてここで戦わなければいけないのか、何故自分はここで命を落とさなければいけないのか、何故自分は人間の命を奪わなければいけないのか、そういうことに対して自分なりの納得できる答えを持たないまま戦場に駆り出された兵士達の規律は必ず乱れます。

アメリカの人々はイラクをよく知りません。イスラム社会に対して無知だと言えます。シンポジウムが始まる前に、アメリカ軍の将校が「モスクであっても攻撃する」と語っている映像を見せました。バグダッドにある有名なスンニー派のモスクを捜索するときでも、米軍は神聖な礼拝場に土足で入って来るわけです。

一年経ってもまだこんなことをやっているんです。つまり、どういう行為がイラクの人達の誇りを傷つけるのかに全く無頓着なままでいるわけです。例えばベトナム戦争の場合も結局、米軍はベトナムから撤退するという選択をせざるをえなかったのですが、北ベトナムのボー・グエン・ザップ将軍は「何故アメリカは撤退せざるをえなかったのか」と新聞記者に訊かれ、「アメリカ人はベトナム人を知らなかったからだ」と答えています。アメリカはそれと同じことをイラクで繰り返そうとしているんです。

ブッシュ大統領はイスラムに対して、反文明的で、遅れたものであると言明しています。自分達の民主主義の方が上等であり、イスラムの遅れた社会に対して進歩的で開明的な「民主主義」というシステムを持ってきてやっているのだから、ありがたがって受け取るのは当然だという傲慢な意識があります。そういう価値観の押し付けに対してイラクの人達は反発しています。

このことに関しては日本人も大きなことは言えません。イスラム教に対して我々が知っていることはわずかです。豚肉を食べないこと、酒を飲まないこと、妻は4人まで娶れること、「目には目を歯には歯を」という教えがあること、これ以上のことを知っている人は少ないと思います。

イスラム教の聖典であるコーランを読んだこともなければ、イスラム教に対して踏み込んで考えたこともないにもかかわらず、イスラムというのは遅れたもの、あるいは過激で何をするのかわからない人達の宗教だというイメージを刷り込まれている。我々はイスラムという社会とそこに生きる人々についてどれほど知っているのでしょうか。

イスラム社会の人々がどういう価値観を持って生きているのかについて、もっと謙虚に耳を傾けることでイスラムに対する見方は大きく変わります。西洋的な民主主義の方が上等であるという前提をまず疑うという視点に立たなければいけない。
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