しかし、実際に外出しようとする人はほとんどいない。その手続きがとても面倒だからだ。
手続きは一般社会とほとんど同じである。まず、職場の承認を受け、次に、政治部の承認を受け、洞(最少行政単位)事務所、保安署に行って承認されれば出入証が発給される。

その各段階でタバコをたんまり渡さなければならない。しかも、とんでもなく時間がかかる。
それだけのことをやっても、必ず出入証が出るという保証はない。また、賄賂としてフィルター付タバコを出せるような「解除民」もそうざらにいない。
「管理所」の外に出るほうが、国内から外国に出るよりもずっと大変かもしれない。
私は「解除」されてから何度か外出した。

まず警備の現役軍人に、◆日まで帰ってくる、帰ってくるときに金は◆◆ウォン、それと希望の品物を買ってくると話をつけておく。
今どきの若い警備兵は、通行証(一般の通行証ではなく管理所の門を通過して、目的地まで往復できる旅行証明書)などを見せるより、賄賂を渡すほうがずっと効き目がある。

私たちにとってもその方がありがたい。賄賂を渡して出かけ、帰りに何かちょっと買ってきてやればいいのだ。
彼らにとってもうまい話だ。除隊の時、警備兵たちは、そうやって稼いだ金を持って故郷に帰ることができる。

彼らにも人を見る目はある。「こいつは出しても大丈夫なやつだ」と判断すれば、金を払えばあっさり出してくれる。出入証なしでも出入りが可能なのだ。
前述したように、「隊内民」はほとんどみな咸鏡道方言を話す「ソルラ」だ。統制区域内では、「ソルラ」方言を使うだけで幹部のような感じがする。
そのため、「解除民」の中には、「ソルラ」方言を使って幹部の真似をする者もたくさんいた。子どもたちも自然に「ソルラ」方言を真似るようになる。
逆に、「ソルラ」を使う者に出くわすと「隊内民」じゃないかと思って警戒したものだ。

わが国では平安道の人間と咸鏡道の人間の話し方にはずいぶん違いがある。普通は訛りのひどい「ソルラ」たちは、平壌へ行くと自分たちの訛りを引っ込めてしまうものだが、管理所内では逆だった。
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