姉はきっとこういうところが良くて、みんながあんなに反対したのに、地位も金もない義兄と結婚したのだろう。インスクは、頼りにならない男だとばかり思っていた義兄に対し、初めて肩を持ちたい気持ちになった。
「そうね、こんな日は麺のほうがいいわ。それに私も迷信なんて信じてないから」
インスクは義兄が手に入れてくれた麺をおいしそうにツルツルッとすすった。
「ああ、おいしい!」
麺を半分ほど食べたインスクは、誰に言うともなしにつぶやいた。
「そうそう。ノンマ麺は胃の中で解毒作用をするらしいのよね。だから厄払いにもなるんじゃないかしら」
「ばかねえ、それはソバのことでしょう……。とにかく気を付けて行って来るのよ」
真っ青だった姉の顔に赤みが差した。妹のおかげで少し気分がよくなったようだ。

「私の心配はいいから、姉さんこそちゃんと養生するのよ」
インスクは、病人に明るい表情を作って見せると立ち上がった。壁に立てかけてあった銅線の入ったリュックを肩に担ぎ、家を出た。
内気な義兄はインスクを後ろから黙って見送るだけだった。
何歩か歩いたところで、インスクはちょっと不安になってきた。

旅立ち前に麺を食べると旅が長くなってしまう……、そんな迷信がいざ出発の段になって頭をよぎったのである。
資料提供 ペク・ヒャン(白香)
二〇〇六年九月
(整理 チェ・ジニ)
注1 ジャガイモなどのでんぷんで作った麺。

[北朝鮮の迷信]

おすすめ<北朝鮮> 写真特集・無料動画… 

★新着記事