学校からどんぐり集めのノルマを与えられた中学生たち。夏休みの間に18キロ集めるのがノルマだという。どんぐりは酒や食品の材料にする。(2008年8月黄海南道海州市郊外 シム・ウィチョン撮影)

 

中学校に通う息子を持つ母親である、リムジンガン記者のペク・ヒャンは、息子の学校の問題で、親として直接体験し感じたことを編集部に語ってくれた。また悩みを抱える他の母親や教師たちの話を取材して録音テープに記録してきた。

彼女の報告には、北朝鮮の学校の抱える深刻な問題が実によく表れている。
この記事は、二〇〇六年一〇月に咸鏡北道のある母親の身に起こった出来事に基づくものである。
整理者は、同じ子を持つ母としてその内容に深く共鳴しつつ、読者のよりよき理解のため、インタビュー記事を以下のような物語風に整理した。文責は整理者にある。

少年団が「自主的」に行う米の徴収
今日はついてない日だ。
ジャンマダン(市場)に嵐(取締り)が吹いたせいで商売を早めに切り上げて家に帰ると、庭先に子供たちが大勢集まって何やら騒いでいる。
少年団(注1)の子たちが、息子のヒョクを寄ってたかって「批判」しているようだ。
ヒョクが「親負担」を出さなかったと罵っている。

「批判」と言えば聞こえはいいが、息子に向かって「物乞い」だの何だのとひどい言葉を投げつけるわ、服を引っ張るわ、小突き回すわ、蹴とばすわ、あげくの果てにツバまで吐きかける始末だ。なんてひどいことをするのだろう!
猛烈に腹が立った私は、台所に駆け込み、米のとぎ水の入った洗い桶を持って来て、その子たちにバシャッとかけてやった。子供たちはびっくりして逃げて行った。

私はその足で担任の先生に会いに学校へと向かった。
まだ勤務時間なのに自由主義(組織の規則を守らず個人の用事をすること)をしに出て行こうとする教師を、校門のところで捕まえた。
「先生、子供たちがうちに押しかけて来て、米を出せと言って騒いでましたけど、そんなことさせていいんですか?」

「あら、そうですか。先生を手伝ってくれるつもりだったのかしら。それで、お宅にも行ったんですか?」
あっけらかんと言ってのけるその教師の態度に、毛が逆立ちそうになった。このまま泣き寝入りするものか。私は自分を奮い立たせた。
「ええ、そうですよ。まったくね、親がひと月の食い扶持をどんなに苦労して手に入れてるかも知らないんですか? 『教師がそんなに儲かるんなら、うちの子も教師にならせようかね!』って、押しかけて来た子たちに言ってやったわよ。

あの子たちは、そりゃあもう、大変な《滅私奉公》ぶりですよ。分団委員長(注2)がなぜうちに来たんだか知らないけど。
先生、分団委員長の子の家から毎月の食糧もらってるんですって? あの子、自分でそう言ってましたよ。いやあ、毎月子供の家から配給をもらえるなんて、先生ぐらいいい仕事はないね」

「親負担」の多さといい加減な授業内容に、ペク記者は息子の通う中学校に抗議に出向いた。写真は応対に出てきた担任の教師。(2006年4月某中学校にて ペク・ヒャン撮影)

「親負担」の多さといい加減な授業内容に、ペク記者は息子の通う中学校に抗議に出向いた。写真は応対に出てきた担任の教師。(2006年4月某中学校にて ペク・ヒャン撮影)

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