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【釜山国際映画祭は市内各地の映画館が会場。「Herman」はセンタムシティの映画シアターで上映された】(撮影:玉本英子)

玉本英子 現場日誌
釜山でイラク映画を観る(2)
2009年11月12日

上映が終わり、拍手が起こった。だが「内容が難しかった」という声をちらほら聞いた。政治背景を知らない一般の人たちには複雑すぎるらしい。世界へ向けて発信する映画としては説明不足だったのか。
それでも私が思うのは、クルド映画としては画期的な作品だったということだ。

「Herman」の主役を演じたヘルマン(本名)はイラク北部ドホーク出身のクルド人、ヒロイン、アダール役のグルバハールはトルコ国籍のクルド人だ。イラクのクルド映画だが、おおぜいのトルコ国籍のクルド人が出演していた。

90年代、イラク北西部のKDP(クルド民主党)の民兵とトルコ南東部のPKK(クルド労働者党)のゲリラは互いに殺し合った時期があった。同じクルド人でも敵どうしだったのだ。その後、2勢力は和解したが、今回、それぞれの地域に暮らしてきたクルド人たちが心をひとつにして映画を作りあげたのだ。

【釜山に来ていた「Herman」のフセイン・ハッサン監督。「クルド人は世界に引き裂かれてきた。だが、クルド人自身も互いに反目し、ときに殺しあってきた。その現実と向き合うことも重要だ」と話した】(撮影:玉本英子)

「Herman」の制作者たちと半年ぶりに会った。いつもイラクで会うので不思議な感じがした。「韓国料理はトウガラシとニンニクが強すぎて、僕たちには食べられない!」と主演のヘルマンは苦笑い。
私たちは小洒落たカフェで話し込んだ。みんなで紅茶を頼んだが、チャイ!と注文する。砂糖をドボドボとイラク式に入れるから、こぼれてテーブルがびしょびしょになるではないか。その姿がなんとも愛らしかった。

35歳のフセイン・ハッサン監督は「クルド人の状況を、経験した苦しみを世界に伝えたい」と熱意を込めて話す。今後、どんなストーリーで伝えていくのか、製作費はどうするのか等、課題は山積みだ。
でも彼らなら乗り越えていけるはずだ。フセイン・ハッサンと同じオフィスで働くモハメッド・ジャノはチャンネルアジアの旦匡子さんの尽力により、06年韓国のアジアフィルムアカデミーでホウ・シャオシェンなど著名な映画監督の直接指導を受けた。

そこでの優秀さが評価され、今年2月までは韓国政府からの奨学金を得てソウルで勉強してきた。彼らの作品が日本でも公開されることを願わずにはいられない。(今後も現場日誌などを通じて彼らのことを伝えていきます)

ちなみに今年のニューカレンツ賞(新人監督賞)は、イラク北部キルクークのサッカー競技場に暮らすクルド帰還難民を描いた、シャウカット・アミン・コルキ監督の「Kick Off」が受賞した。彼はイラク北部生まれで難民としてイランに逃れたクルド人だった。少しだけ話をしたが、愛嬌のある人で好感を持った。「Kick Off」はNHKハイビジョンで放映されていたので、ご存知の方もおられるだろう。