Yoi Tateiwa(ジャーナリスト)

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【連載開始にあたって  編集部】
新聞、テレビなどマスメディアの凋落と衰退が伝えられる米国。経営不振で多くの新聞が廃刊となりジャーナリストが解雇の憂き目にさらされるなど、米メディアはドラスティックな構造変化の只中にある。 いったい、これから米国ジャーナリズムはどこに向かうのか。米国に一年滞在して取材した Yoi Tateiwa氏の報告を連載する。

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第1節 ウィッキーリークスと調査報道(5)
◆ロウ・バーグマンとアサンジ

ロウ・バーグマン(Lowell Bergman)と耳にして直ぐにピンと来る日本人は少ないだろう。

1999年に映画化された「インサイダー(The Insider)」(※注1)でアル・パチーノが演じたジャーナリストだ。映画で描かれた当時はCBSテレビの看板報道番組「60 Minutes」のプロデューサーだった。

バーグマンは今、公共放送PBSで調査報道記者として圧倒的な存在感を示しつつ、アメリカ西海岸の名門UCバークレイ(UC Berkeley)の大学院でジャーナリズムを教えている。
そのバーグマンが毎年、主催しているジャーナリストの為のイベントがある。

Rava And David Logan Investigative Reporting Symposium(ラヴァ&デイヴィッド・ローガン調査報道シンポジウム) の様子。 テーマは「The War on WikiLeaks(ウィッキーリークスに対する戦争)」だった。 / 2011年 UCバークレーにて

Rava And David Logan Investigative Reporting Symposium(ラヴァ&デイヴィッド・ローガン調査報道シンポジウム) の様子。 テーマは「The War on WikiLeaks(ウィッキーリークスに対する戦争)」だった。 / 2011年 UCバークレーにて

 

「Rava And David Logan Investigative Reporting Symposium(ラヴァ&デイヴィッド・ローガン調査報道シンポジウム)」がそれだ。大手メディアからフリーランスのジャーナリスト、大学の研究者らが全米からUCバークレイに集まって数日間、調査報道の在り方について議論する。

2011年のシンポジウムで、WL(ウィッキーリークス)に関するパネルディスカッションが開かれた。その名称は、「The War on WikiLeaks(ウィッキーリークスに対する戦争)」。

パネラーはこれ以上ないだろうという豪華な顔ぶれとなった。イギリスの日刊紙、ガーディアン(Guardian)のニック・デイビス(Nick Davies)、ニューヨークタイムズ編集局長のビル・ケラー(Bill Keller)、そしてドイツでWLから公電を得たシュピーゲル(Der Spigel)の担当デスクなど。

ガーディアンのデイビスは、WLの創設者であるジュリアン・アサンジ(Julian Assangeに接触して公電を受け取った最初の記者だ。ニューヨークタイムズは、WLから公電を事前に提供されていたアメリカで唯一のメディアだ。

ケラーがその関与の全ての責任を負う人物であることは間違いない。そして、そのパネリストの最後には、「Special Guest Appearance」、つまり特別ゲストが予定されていると書かれている。

実は私は、このゲストが誰かということを事前に教えられていた。主催者のバーグマンが、「誰にも言うなよ」とウインクしながら一言、「ジュリアン」と教えてくれたからだ。

ジュリアン・アサンジが来る?それは無理だろう。既にアサンジはイギリスで捜査当局に身柄を拘束されている。
どういう事かと思いながら、しかし、ある種の期待は持った。前の年に開かれたこのシンポジウムにアサンジが招待されて参加しているからだ。

まだWLが注目され始めた頃のことだ。アサンジはWLの趣旨を説明し、バーグマンをはじめとする全米の調査報道記者らに歓迎された。アサンジにとってこのセミナーに出ることを妨げる理由は無い。しかしイギリスの捜査当局がアサンジの出国を認めるのだろうか?それはあり得ない。
では、どうするのか?私は会場のホールに座って、パネラーが席に着く様を見つめた。
(つづく)

※注1:映画「インサイダー」ストーリー
CBSの人気報道番組『60ミニッツ』のプロデューサーの元に匿名でタバコ・メーカーの極秘ファイルが届けられた。彼はこの書類の意味を探し出し、やがてジェフリー・ワイガンドという「内部告発者」に出会う。それは、巨大な敵との壮絶な戦いの始まりでもあった。

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