◆久之浜漁港
久之浜漁港を訪ねると、岸壁につながれた十数隻の漁船が停泊していた。閑散とした魚市場には30人あまりの漁師たちが行くあてもなく、肩を寄せ合っていた。
「やっぱり、みんな海が気になる」
いわき市漁業協同組合久之浜支所長の江川章さん(65)も連日、母港に来て海を眺めているという。
「漁に出たくても出られない。光が見えない」

停泊したままの漁船(久之浜漁港)

 

東京電力福島第一原発事故で汚染水が海に流出、魚から基準値を超える放射性物質が検出されたため、福島県内の各漁協は原発事故から操業の自粛を続けている。
昨年3月11日、江川さんは福島第一原発から15㌔の沖で底引き網漁をしていた。空には暗雲が立ち込め、ひょうが降った。揺れがおさまると、江川さんは漁船を沖に向けて出した。巨大な津波が原発の建屋に直撃するのを目の当たりにしている。

2日間、沖合をさまよい、母港に戻ると漁港は壊滅的な状態だった。仲間たちの漁船数十隻が海に沈んでいたり、岸壁に乗り上げたりしていた。津波で破壊された漁船は6割を超えていたが、組合員77人は全員無事だった。
「力を合わせれば、きっと漁港は再建できる」と信じたが、原発事故によって放射性物質が海へ垂れ流され、漁は自粛となる。いつ収束するかわからない原発事故。漁再開の見通しも立たないまま、1年と2カ月が過ぎた。

これまで国から請け負ったがれき撤去と東電の賠償で何とか食いつないできた。だが、がれき撤去の仕事は3月に終わった。
「組合員の多くが新たに購入しなければならなくなった家や車のローンを抱え、子どもの教育費もあって生活面で苦労している。貯金を切り崩して細々と生きているのが現状だなあ」

組合員の平均年齢は60歳。後継者不足に原発事故が追い打ちをかけた。このまま漁が再開されないと、若者はますます地元を離れていく。すでに組合員の7人が転職した。
各漁協では週に1度、持ち回りで福島沖の海に出ている。放射線量を測定するためのサンプリング調査のためだ。指定された150種類近い魚介類のうち、これまでに21種類から1㌔当たり500ベクレルを超える放射性セシウムが検出されたという。その暫定基準値も、この4月から1㌔当たり100ベクレルに引き下げられた。年間の被爆線量限度が「年5㍉シーベルト」から「年1㍉シーベルト」に引き下げられたからだが、新たな基準を超える魚種は地元産のメヒカリなど44種類を数えるという。

水揚げできる魚種が限定されれば漁業経営の採算が合わなくなるばかりか、福島沖でとれた魚を買ってもらえるのか。
「放射能は海底に蓄積しているのか、餌になるゴカイやプランクトンも汚染されているのか、特に底引き網漁の先行きは苦しいねえ」

「光が見えない」と話す江川さん

 

原発事故直後は国や東電に対して怒りしかなかったという江川さんだが、「今は東電と協力してでも海の放射能汚染の実態を把握して対策を考えてもらい、一日も早く漁を再開したい」と願っている。
「このままだと、福島の漁業はなくなっちまう」
江川さんの不安は尽きない。
(続く)