第5回 舞台挨拶で「思い」を伝えた
◆これまでアフガニスタンでは誤爆被害の子どもや難民を取材し、フィリピンではゴミを集めて生きる子ども、インドネシアではストリートチルドレンなどをおもにテレビドキュメンタリーとして作ってきましたが、「隣る人」の映画づくりで、これまでの経験が活かされた部分はありますか?

刀川
インドネシアでもアフガニスタンでも、子どもたちが生きてる環境としては、あっちのほうが絶対的に過酷なんですよ。たとえば日本の児童養護施設であれば、少なくともご飯は食べられる、学校にも行かしてくれます。アフガニスタンとかインドネシアで取材した子どもたちは、そんなレベルじゃないですから。

20120813_apn_tonaruhito_014子どもであろうと食べる心配から始まって、その日寝る場所をどうするのか、そんな状況だったりします。日本の貧困とはあまりにも違います。思ったのは、逆にそのことが比較しうる対象なのではない、ということです。日本の中で生きている子どもたちが抱えている困難さは違ったものだと思うのです。

ご飯も食べれて、学校に通えるということは絶対的に豊かなわけですが、それが子どもが生きていく上での「豊かさ」かどうかというのは、必ずしもイコールでつながるものではないということです。

◆映画に出てくる子どもたちの反応はどうでしたか?

刀川
『隣る人』は2011年の山形国際ドキュメンタリー映画祭に招待していただいたんです。そこへ本作の主人公ともいえるマリナとムツミ、かれらの担当の保育士であるマリコさん、理事長の菅原哲男さんを招待して映画を観てもらいました。かれらが映画のことを認めてくれなければ公開はできないと思っていました。

20120813_apn_tonaruhito_010映画が終わった直後、マリナとムツミは内省した顔でうつむいていました。舞台挨拶をする機会があったんで、僕はその場を借りて、ムツミとマリナに伝えたかったことを話そうと思っていました。「マリナとムツミは僕にとってもかけがえがない二人であり、マリナとムツミとこれからもきちんと向き合っていこうと思っている」とか、そんなことです。

舞台挨拶終了後、二人に「怒ってる?」って訊くと、二人とも「怒ってないよ」って言ってくれました。そんな中、ムツミが「マリナちゃんより私のほうがいっぱい写ってたよね。でも、私ってあんな嫌な奴?」って言ったんです。
それを聞いたマリナが「当たり前じゃん」って応えて、なんか笑って過ごせる時間になったんです。それが「隣る人」の公開に向けての第一歩になりました。
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[2011/日本/SD/85分/ドキュメンタリー] 企画: 稲塚由美子
撮影: 刀川和也、小野さやか、大澤一生
編集: 辻井潔
構成: 大澤一生
プロデューサー: 野中章弘、大澤一生
製作・配給: アジアプレス・インターナショナル
配給協力: ノンデライコ
宣伝協力: contrail
宣伝: プレイタイム
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『隣る人』 公式ページ(映画案内・上映情報)

 

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