◆まったく生かされなかった事故想定

R:この報告書によると、原子炉格納容器が破壊されて放射性物質が大量に漏れ出した場合、最悪のシナリオとして、急性被曝で1万8000人が亡くな り、原発から約86キロ圏内が居住不能になるという想定をしていたということです。当然ながら、4年前の事故を思い出すわけですが、公になって真剣に対応 されていれば、原発事故を防げたという面はあるのでしょうか。

小出:今お話にあった被害の規模は、原子炉格納容器という、放射能を閉じ込める最後の防壁が攻撃で破壊されるというシナリオの結果です。けれども、 他にもいろいろな想定をしていまして、全部の電源が失われる。つまり、福島第一原子力発電所で起きたような事故シナリオというのも、実は検討されていたの です。

R:こうした研究は全く生かされてこなかったということですか。

小出:もし、そういう報告書がきちんと報告されて、みんながそれを読むことができていたのであれば、発電所が全部の電源を失う、私たちは「ブラック アウト」と言っていますけれども、そういう場合に、どんなことができるかということをもっと真剣に考えたと思います。そして、住民を避難させるためにどん な手立てがあるのかということも恐らく、その時点で考えられたはずです。こういうある意味、貴重な研究だったわけですから、それをどうして公表しないのか なと、やはり私は思ってしまいます。

R:やはり、反原発運動が盛り上がることを恐れたのでしょうか。

小出:まあ、原子力発電所というものは非常に弱い部分を持っていて、例えばその電源を破壊してしまったら、もう手が付けられないという機械なわけで す。そのことを一般の人たちに知られてしまうと、原子力に対する危機感というものが広がってしまう。そのことを恐れたというのが、恐らく本音なのだろうな と私は思います。

R:しかし、この被害予測を作成した2年後には、チェルノブイリ原発事故もあるわけですよ。その時に考え直すことはできなかったのでしょうかね。

小出:官僚という人たちの体質というのは、やはりどうしても自己保身というかですね、自分にとって都合の悪いものはできる限り表に出さない、ということをこれまでも長い間やってきたわけですし、これもひとつの例なのだろうと私は思います。