建設アスベスト(石綿)訴訟の最高裁判決を受けて提出された、未提訴の被害者に対し、給付金を支給するための法案が6月3日、衆議院本会議において審議なしに採決され、全会一致で可決された。来週にも成立の見通しという。(井部正之)

最高裁前で原告の勝訴を伝えるようす

◆1万人超の建設被害者救済か

議員立法の「特定石綿被害建設業務労働者等に対する給付金等の支給に関する法律案」は与党のプロジェクトチームがまとめたもの。建設業務に従事しアスベストを吸って中皮腫などの健康被害を受けた未提訴の労働者や一人親方などに対し、「迅速な賠償を図る」ため、給付金を支給する行政認定制度を設ける。

法案によれば、対象となるのは(1)1972年10月から1975年9月の間に吹き付け作業に係る業務、(2)1975年10月から2004年9月の間に一定の屋内作業場で行われた作業に係る業務──のいずれかによりアスベストに曝露して中皮腫などを発症した労働者や一人親方など。被害者や遺族の請求に対し、厚生労働省が設置する審査会で検討して認定されれば、病気の種類や症状に応じて550万~1300万円を給付する。同省は外郭団体の労働者健康安全機構に基金を設け、支払いなどの業務を担う。

施行は公布から1年以内とされ、給付金の支払いは2022年3月末までに開始するという。

アスベスト曝露による建設業の労災認定は約8000人超おり、石綿健康被害救済法で認定を受けた約6000人超の職業曝露の被害者のうち2000人超が建設業で、計約1万人超の被害者が新たに設置する認定制度による給付の対象になり得る。約1000人の原告や弁護団らが新たな救済の道を拓いたのであり、その意義は大きい。

しかし結局、屋外作業者は対象者から除外され、切り捨てられた。

原告らは「屋外作業者も同じ現場で同じように働いてアスベストに曝露し被害を受けた」と指摘して最高裁判決を批判し、政治解決を求めてきた。また弁護団は「訴訟の限界を補うのが政治の役割」と強調している。

提出法案は最高裁判決どおりの内容であり、被害者の声は国会には届かなかったことになる。

支援団体からは「与党は問題点として認識は持っているけど、建て付けが最高裁の範囲なので、なかなか政府との関係で崩せなかった」との観測が聞かれた。

なお、建材メーカーによる補償については附則で検討を継続することにしている。

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