◆検証なき支出繰り返すのか

これは事実と異なる。

市が開示した両者のメール記録によれば、市は今回の件で検証が可能なのかとその方法を尋ねたところ、昨年12月13日に同協会は「分析機関が保管している試料を回収するか、過去の採取箇所に近接した場所で再度採取し、複数の熟練した分析者が分析し、協議して合意した結果を元に、分析結果を検証します」などと返信している。つまり、検証可能との見解なのだ。

すでに述べたように公的機関による再検査は市の指示で元請けにやらせたもので、市が自ら調査・分析不一致の検証をしていない。つまり業者の言いなりになってアスベスト除去費用を5億円増加させたことになるとして、上田さんは今回の支出が不適正だと考えている。

市によれば、仕上塗材の除去が始まって以降の市営住宅の解体工事は19件あり事業費は計26億円。1件あたり約1億3600万円だ。

市は築40年以上経過し、エレベーターの設置がない計36カ所の市営住宅で計284棟7057戸を2021年度から10年間で優先的に改修・解体・建て替え(廃止含む)し再編する計画を掲げている。このうちどれだけが解体されるのかは不明だが、外壁の仕上塗材は20年ごとの改修で除去・再施工する以上、相当数が今回問題になっている仕上塗材の除去を含むことになる。

「これでは今後の解体工事で同じようなことが起きたら毎回工事費が何倍にも増えることになる」と上田さんは警告する。

金本忠義建築住宅局副局長は「今後こういうことが頻発するとはちょっと想定しにくい」と市議会で発言しているが認識が甘いといわざるを得ない。そもそも上記の3つの調査のうち、事前調査と再調査では調査・分析いずれにおいても有資格者による規制を先取りした対応がされていた。にもかかわらず、今回調査・分析いずれにおいても不一致が相次いだ。市の担当者が有資格者になっていようが、改修・解体時の事前調査義務は施工者にある。新たに分析してやはり異なる結果が出るといったことは当然起こりうる。

今回検証しなければ、そうした場合にどのように対処すればよいか蓄積されない。これを検証せず、ひたすらすべてアスベスト「あり」として最大数で対策するのが本当に合理的とは思えない。まして検証可能と専門機関から回答を得ていながらそれを無視するのはさすがにおかしいだろう。これでは不適正な調査による“アスベスト偽装”で利益供与をしていると住民監査請求や行政訴訟が起きてもおかしくない。

神戸市は目先の解体を優先して、それほど費用や時間も掛からない検証をおこたって、今後も迷走し続けるのだろうか。

【訂正】
初出にて小林るみ子市議による市議会質疑を「2021年12月8日の都市交通委員会」としておりましたが、正しくは「本会議」でしたので3月10日午後3時に訂正しました。

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