◆建物管理のあり方問う送検

今回の送検はそうした状況に改めて一石を投じるものといえよう。

この件においてどの程度の吹き付け材の劣化や石綿の飛散から「送検の必要あり」と判断したのか現段階でははっきりしない。むしろ一度指導したにもかかわらず2年後においても対応されていなかった事実がより重視されたという可能性が高い。

すでに述べたように監督署は取材に対し詳細を明らかにしておらず、本当のところはわからない。だが監督署の立ち入りしだいでは、相当数の建物が同様の理由で書類送検され得るということだろう。建物に使われた吹き付け石綿や保温材などの管理がずさんであれば、それだけで立件されかねないということだ。

そもそも事業者が石綿則の建物管理義務を遵守することは当然である。なにしろ18年前の2005年から存在する規定なのだ(保温材などは2014年6月から)。法令ではないものの厚労省が法に基づいて定める技術指針(同3月31日)には「吹き付けられた石綿等又は張り付けられた石綿含有保温材等の損傷、劣化等の状況について、定期的に目視又は空気中の総繊維数濃度を測定することにより点検すること」と明記されている。

建物の改修・解体時における石綿調査は義務づけから20年近くたってようやく浸透してきた感がある。一方で見過ごされがちなのが改修でも解体でもない、建物を使用している際の石綿管理の義務だ。

仕事で石綿を扱った経験がなく、石綿を扱う人の近くで作業するといった間接ばく露もない、吹き付け石綿が使用された部屋で働いていただけでも中皮腫(肺や心臓などの膜にできるがんで非常に予後が悪い)などを発症し、労災認定を受けた人は100人を超えることが同省の公表資料で明らかになっている。そうした現実からも、今回の送検事例を機に事業者は建物の通常使用時においても石綿の調査・管理を徹底させていくことが求められる。一方で制度の不備が存在することは間違いなく、国は建物の通常使用時における石綿調査の義務化や基準の明確化を図り、建物管理を徹底させるべきだ。

 

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