(参考写真)平安南道安州市の労働者のアパート。4階部分のベランダが改造されているのが分かる。私財で買った国家住宅を勝手に拡張、増築する行為が蔓延しているという。2008年6月にペク・ヒャン(アジアプレス)撮影

社会主義を標榜する北朝鮮では住宅のほとんどは国家所有である。だが、平壌から地方に至るまで、25年にわたり国家住宅は活発に売買され、不法ながら実質的に住宅市場ができ上っていた。しかし、金正恩政権が最近になって住宅売買に対する取り締まりに乗り出していることがわかった。北部の取材協力者が伝えてきた。 (カン・ジウォン/ハン・ハユ)

◆突然始まった住宅売買に対する干渉と統制

6月後半、北部に住むアジアプレスの取材協力者は次のような内容を伝えてきた。

「人民班長を通じて、引越し、同居、住宅販売に対する集中調査を始めた。住民登録を正しくせずに他人が同居したり、親戚の家に滞在したりしている者、家庭不和、分家した世帯などを、すべて登録して処理するということだ」

もともと不法な同居や職場離脱者を取り締まるために始まった居住実態調査だが、標的になっているのは住宅取引だという。当局は、人民班を通じてすべての住民の住宅を把握し、公然と行われてきた住宅売買に対する規制と処罰を開始した。

※人民班は最末端の行政組織で、地区ごとに20~30世帯で構成される。

◆国家住宅の売買が定着していたが···

北朝鮮では、住宅は国家による無償配分が原則であったが、1960年代にその不足が深刻になった。人口増加に建設がまったく追い付かず、赤の他人が1つの家に同居するのが当たり前になった。

1990年代後半からの大飢饉で死者が大量に出て空き家が数多く発生した。また、困窮した人々が最後の手段として家を売りに出した。このような悲劇的な理由で、多くの住宅が供給されることになって公然と売買が始まった。それは、「入舎証」(居住登録証)の売買という形を取り、平壌の高層アパートから地方小都市の古く小さな家に至るまで取引されるようになったのだ。

◆突然の住宅売買禁止に不安拡散

協力者は、今回の措置はトンチュ(金主の意、新興富裕層)がアパートを建てて個人に販売する行為をなくすために実施されたものだとして、次のように説明する。

「トンチュたちは都市建設隊や貿易会社にお金を払ってアパートを建設し、個人や機関に売却してきた。(当局から)建物の所有者が生まれる非社会主義行為を厳重に法的処罰しろという指示があったそうだ」

※都市建設隊とは行政機関傘下の建設企業のこと。

今回の住宅取引の取り締まりは、過去に遡って調査する可能性があるという噂が流れており、トンチュと住民の間に不安が高まっている。不法とはいえ、ほぼ25年に渡って定着してきた住宅売買が全面禁止された場合、北朝鮮経済と住民生活に大きな混乱が生じる可能性がある。

※ アジアプレスでは、中国の携帯電話を北朝鮮に持ち込んで連絡を取っている。

 

 

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