◆第2波攻撃で隊員が殉職

消防隊の活動の妨げとなっているのが、ミサイルや砲弾の第2波攻撃だ。消火、救助作業中に、連続してミサイルが撃ち込まれることがあるのだ。このため、隊員たちは防火服に加え、重いプレート入りの防弾ベストを着用する。

ザポリージャ市内の大通りには、軍と兵士を称えるスローガンが掲げられた大きな看板が立ち並ぶ。そのなかに、殉職した消防隊員を追悼する看板がある。ロシア軍の攻撃下、これまでに1名が殉職、6人が負傷している。亡くなった隊員は、現場に到着したところに2発目が着弾し、犠牲となった。

殉職した隊員を顕彰する看板。隊員は、ロシア軍からの砲撃の現場で消火活動に駆け付けたところに2発目が炸裂し、亡くなった。幼い娘がいたという。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

戦時下での任務の過酷さについて語るザポリージャDSNSのニコラ・ザイコ副本部長(左)とセルヒイ・シェルチェンコ副署長(右)。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

ザポリージャ消防本部のセルヒイ・シェルチェンコ副署長(46)は、第2波攻撃について説明する。

「急いで駆け付けても、そこに次のミサイルが炸裂すれば、犠牲が拡大します。安全を見極めながら、消火作業と救助活動を進めなければならず、迅速に動けません。住民と隊員の命にかかわる大きな問題です」

ヨウ素剤を手にするヴォロデミロヴィチ隊長。ザポリージャ原発破壊による放射能流出を想定し、消防隊の各車両に常備されている。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

◆原発破壊に備え、ヨウ素剤

ザポリージャ州には、欧州最大級の原発があり、現在、ロシア軍の占領下に置かれている。戦闘での損傷だけでなく、ロシア軍の意図的な破壊もありうる危険な状況だ。放射能流出の事態を想定し、消防隊はヨウ素剤を携行していた。

「これを服用する日が来ないことを願っていますが、放射能汚染という最悪の事態も想定し、対処できるようにしています」
ヴォロデミロヴィチ消防隊長は、ヨウ素剤の入った小さな白い容器を見せて言った。

ザポリージャ市街は、ロシア軍支配地域から約30キロだが、絶え間ない攻撃にさらされている。ザポリージャ原発(6基)は、欧州最大級の規模で、現在ロシア軍の占領下にある。(地図作成:アジアプレス)

消防隊を取材した直後、ザポリージャからさらに南方にあるカホウカダムが破壊され、ドニプロ川下流域のヘルソン一帯に大規模な浸水被害が出た。ロシア、ウクライナ両政府ともダム破壊への関与を否定し、双方が非難。下流域に多大な被害が出る事態が起きたことで、原発破壊も含め、あらゆることが想定される状況となっている。

消防隊員たちは、危険と隣り合わせで任務を続ける。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)

◆住宅地に繰り返される攻撃

消防部門を管轄するDSNS(国家非常事態庁)は、ミサイルと砲撃による被害者、損壊建物を詳細に記録している。ロシア政府は「軍事施設を標的」としているが、ザポリージャDSNSのニコラ・ザイコ副本部長(44)は、こう話す。

「半径3~5キロ以内に軍事施設が一切ない地区までもが攻撃を受けています。住民の避難場所にも着弾し、子どもを含む多数の市民が犠牲となりました。テロ行為というほかありません」

命を救う最前線で、消防隊員たちは過酷な任務と向き合い続けている。

DSNSは民間地域での地雷・不発弾処理も担う。ポスターには様々な地雷・砲弾の写真とともに「爆発物を見ても触らないで」と注意を呼びかけている。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:玉本英子)


ザポリージャ消防署の隊員たち。日本政府からはDSNSを通じて車両も届いているという。(2023年5月・ザポリージャ・撮影:坂本卓)

 

 

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