内戦勃発から5年目に突入したミャンマー。東部カレンニー州では、民主派や少数民族武装勢力などの抵抗勢力が約8割の領土を支配し、暫定州政府による統治を進めている。劣勢の国軍は空爆に頼り、いくつかの町しか支配できていない。昨年末から約1ヵ月、カレンニー州の解放区(抵抗勢力の支配区)に潜入し、内戦下で生きる人々を取材した。(新井国憲)

前線に向かう抵抗勢力の兵士たち(2025年1月 撮影:新井国憲)

◆激しい空爆続くカレンニー州西部

タイから国境を越え、解放区に足を踏み入れると、カレンニー諸民族防衛隊(KNDF)の若い兵士たちが車で迎えてくれた。KNDFはクーデター後にできた新しい抵抗勢力で、20代前後の若者を中心に構成されている。

カレンニー州(カヤー州)はミャンマー東部にあり、タイと国境を接している(地図作成:新井国憲)

幹線道路の一部を国軍が占拠しているため、迂回して未舗装のでこぼこ道を走る。国境から目的地のカレンニー州西部のディモーソーまで、州内を縦に分断する大河・サルウィン川を渡河して2日かかるという。

サルウィン川は東南アジア有数の大河だ。チベットを源流にミャンマー北東部を下ってアンダマン海へ流れる(2023年10月 撮影:新井国憲)

車窓に映る国境付近の村は荒れ果てていた。2023年11月、カレンニー州内の抵抗勢力は、北東部シャン州の抵抗勢力同盟軍による大規模攻勢「1027作戦」に呼応する形で、国境付近に残る国軍に攻撃を開始。戦闘に敗北し、タイ国境の支配権を喪失した国軍は激しい空爆で応酬した。

それから1年以上経過した今も、村には爆撃で骨格だけになった建物や焦土と化した土地が残っていた。道路沿いには地雷を掘り起こした跡が点々と続く。「この辺りは我々が完全に支配しているので安心してください。ただし、道路の外に出歩いてはいけません。我々が埋めたものも含めて、まだ地雷が残っていますから」と同行する兵士。

国軍に空爆され半壊したタイ国境付近のカトリック教会。屋根は崩れ、鉄骨がむき出しになっていた(2025年1月 撮影:新井国憲)

サルウィン川を渡り終えた頃、昨日、国軍に空爆された拠点があるとの情報が入った。空爆されたのは抵抗勢力側の兵士が滞在していた学校跡地で、兵士1名が死亡、もう1名が負傷したという。急いで現場に向かった。

2メートルを超えるすすきに覆われた細い道を車で突き進むと、草原の中にひっそりとたたずむ校舎があった。空爆が直撃したのは校舎横の樹林地帯のようだ。黒焦げになった倒木が重なり合い、野草は跡形もなく消滅していた。

やや狙いが外れたせいだろうか。建物は壊れておらず、空爆による損傷は少ないように見えた。しかし、中に入ると窓ガラスの破片が無数に散乱し、天井の壁は崩れ落ちていた。床には凝固した血痕がべっとりと付着したままだった。前日の凄惨な空爆の跡が生々しく残っていた。

教室には空爆で死傷した兵士の血痕がべっとりと残っていた(2025年1月 撮影:新井国憲)

教室の壁面に飾られていた書面によると、日本財団が援助するプロジェクトの一環で建設された学校だった。

日本財団が援助していたことを示す書面が壁にかけられていた(2024年12月 撮影:新井国憲)

この付近には他に建物はない。人目につきにくいこの場所が標的となったのはなぜか。「どこからか情報が漏れた。スパイがいると思う」と兵士が鋭い目つきでつぶやいた。

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