◆「Welcome to KARENNI!」
冷え込み始めた日没、西部・ディモーソーに到着した。峻険な山々に囲まれた市街地が盆地状の平地に広がり、幹線道路沿いにずらっと商店が立ち並ぶ。人通りはまばらだが、飲食店や食料品店に立ち入る人々の姿がある。賑やかとは言えないものの、他の町より活気があるようだ。

ディモーソーは抵抗勢力の拠点となっているうえ、国軍の支配を恐れて逃げてきた人々も多く、国軍の空爆の標的となっている。
「この辺りは毎日空爆されています。人々は故郷を離れがたく、近くの洞穴や手づくりの防空壕に避難しています」

滞在する建物で一息つき、長時間の移動で凝り固まった身体をほぐしていたときだった。同行する兵士のモディ(23)が異変を感じ取り、訝しげに空を見上げた。
周りにいた兵士たちも一斉に視線を上に向け、張り詰めた表情を浮かべた。ただならぬ空気が漂うなか、空に轟く戦闘機の音が迫ってくる。国軍の空爆が始まるのだ。
「建物へ駈け込め!」と兵士が叫んだ。慌てて建物の中に入り、窓の陰から上空を見渡すと、戦闘機が2回ほど旋回していた。突然の出来事に心臓の鼓動は激しく波打ち、カメラを持つ手は震えていた。
数名の兵士たちがざわめき、「撃った!」とモディが声をあげた。大気を切り裂くミサイルが、圧迫感のある音を伴って地上に迫る。直後、「ドンッ」と着弾した振動に襲われ、咄嗟に身をかがめた。
「こわい!こわい!」
恐怖心に駆られた通訳が声を震わせた。モディが「心配しないでください、大丈夫ですよ」と宥めたものの、戦闘機は依然として上空を動き回っていた。窓際にいた義足の兵士は耳をふさぎながら戦闘機を目で追っている。再度攻撃態勢に入ったのか、上空を見つめていたモディが「あっ!」と声を上げ、「付いてきてください!」と近くの洞穴に私たちを誘導した。
木陰からおそるおそる空爆された方向を見渡すと、美しい夕焼けのなかに黒煙が立ち昇っていた。国軍の標的は目と鼻の先だった。緊張で体がこわばる。
戦闘機は地上にいる人々を舐め回すように数回旋回したあと、西の方へ消えていった。爆撃地は多くの人々が生活している市街地の中だ。身体中にこだまする心音が収まらない。空爆された方向を見つめ、呆然と立ち尽くしていた義足の兵士は大きな声で叫んだ。
「Welcome to KARENNI!(カレンニーへようこそ!)」

【新井国憲(あらい・くにかず)】
1997年生まれ、福岡県出身。大学卒業後、2023年からフリーランスのジャーナリストとして活動を開始。関心分野は紛争地、民族。現在はミャンマー内戦に焦点を当てて取材中。