知り合いの旅行ガイドの女性(46歳)を訪ねた。すでにガイド業をやめ、家業の衣料品店経営に専念していた。店は繁盛しているようで、かつての平屋建ての家は、4階建てビルに変貌していた。
最近の変化を尋ねると、
「タイポンとカチン・ロンジーが飛ぶように売れている」
と彼女は教えてくれた。
タイポンは、ミャンマーの伝統的正装で橙色の上着のことだ。カチン・ロンジーは、緑色のチェック柄の巻きスカート。この上下の組み合わせが、国民民主連盟(NLD)のいわば"制服"となっている。いま多くの支持者が、NLDに入党し、アウンサンスーチー女史の演説集会や選挙運動などで、この"制服"を纏っている。
彼女は、アウンサンスーチー女史の国政参加や報道の規制緩和も変化のひとつとして挙げた。しかし、「それ以外にまだ特に変化はないし、当局を怖いという気持ちは消えていない」と話した。
だが、アウンサンスーチー女史の肖像が入ったTシャツやNLDの鉢巻を身につけて街を闊歩する人たちを見ると、以前のものが言えない時代とは画然とした違いを感じる。人々は、はばかることなくNLDへの支持を公言し、すでにものを言う自由を獲得したようにさえ見える。

選挙運動を行なう国民民主連盟(NLD)の候補者と党員たち。橙色の上着タイポンとカチン風ロンジーは、いわばNLDの制服となっている。(3月30日ヤンゴン、赤津陽治撮影)

 

「今は叫ぶことができるだけ。少なくとも2015年の総選挙にならないと変わらない」。
旧知の少数民族出身の歴史学者(80歳)は、こう指摘する。
議員の25%は最初から軍人枠であり、残りの議席の大多数は、軍事政権の翼賛組織から政党となった連邦団結発展党(USDP)の議員で占められている。また、軍部と政府の中枢で構成される国防治安評議会に強大な権限が憲法で与えられており、「今の政府には、国民のNLD支持を恐れる理由がない」と語る。
政府や軍部がNLDに活動の自由を許しているのも、アウンサンスーチー女史を利用して、欧米の経済制裁を解除させるためだと断言する。
NLDが政党として再登録することを決める前の昨年11月4日、政党登録法の次の三項目が連邦議会で改正された。
①政党登録申請時の宣誓文にある「憲法を擁護する」という文言を「憲法を遵守する」という表現に変更。
②禁錮刑を受けている者を党員にすることを禁じる規定を削除。
③総選挙後に登録した政党が、補欠選挙に出馬しなかった場合は、政党登録を抹消されるという注釈規定を追加。
この法改正は、テインセイン大統領とアウンサンスーチー女史の間での"合意"が反映されたものと考えられる。
①と②は、NLD側の要求によるものとしても、③は、NLD側の要求とは考えにくい。つまり、NLDを政党として再登録させ、同時に補欠選挙にも参加させたいという意向が政権側にあったと読みとれる。

スーチー女史への投票を訴えるNLD党員と支持者たち。(3月31日コームー郡、赤津陽治撮影)

 

「今の変化は革命的なものではない。変わっていくとしても、漸進的なものでしかありえない」。
先の歴史学者はそう語る。
歴史家としての彼の目には、現在の変化は、表面的なものであって、根本的な変化ではないと映る。
「ミャンマーの政治は成熟していない。変わるとすれば、クーデターが起こることなく、2015年の総選挙でNLDが多数派を形成したときだろう」。
【ヤンゴン=赤津陽治】