揚子江が流れる湖北省宜昌市. 写真 2013年11月湖北省宜昌市

揚子江が流れる湖北省宜昌市. 写真 2013年11月湖北省宜昌市

 

昨年、中国各地で豚の死骸の不法投棄が社会問題になった。養豚業者が病死豚の処理費用負担から逃れようとして捨てたという疑いが出ている。しかし問 題は投棄ばかりではない。調べていくと病死豚を闇で不法販売する事件も発生していた。食の安全が深刻な事態となっている中国。その実態を現地取材した。
(アイアジア/宮崎紀秀)
● 流れ着いた大量の豚の死骸
去年3月、中国・上海を流れる川、黄浦江に大量の豚の死骸が流れ着いた。数は1万頭以上。住民からは黄浦江を水源とする飲み水の汚染への不安の声が上が り、当局は検査で安全を確認するなど火消しに躍起になった。豚は上流にある養豚地域から流れ着いたものと考えられたが、そもそも豚が大量死した原因やその 豚を誰が何の理由で投棄したのかなど、ミステリーはついぞ解明されることはなく人々の記憶から薄れて行った。

上海の一件から半年以上経った11月。その背景を探ってみようかと考えていた矢先、今度は湖北省で100頭近くの豚の死骸が投棄されたという写真がネット上に投稿された。私は、中国で頻発する死んだ豚の大量投棄の謎を探るべく、首都・北京から湖北省に飛んだ。

「病死した豚を捨てたら罰金3000元(約5万1000円)」と書かれた看板. 写真 2013年11月湖北省宜昌市

「病死した豚を捨てたら罰金3000元(約5万1000円)」と書かれた看板. 写真 2013年11月湖北省宜昌市

 

● 豚が捨てられる街
私が向かったのは湖北省の西南部にある宜昌市。人口400万の宜昌には中国を代表する大河、揚子江(長江)が流れる。市の中心部から車でしばらく走り、豚 が投棄されていたという点軍区に近づくと、道路添いに立てられた青地に白い文字の立て看板が目に入った。「死んだ豚を投棄したら、罰金3000元(日本円 で約5万1000円)」と書いてある。つまり死んだ豚を投棄することは違法である、と明確に告知しているわけだ。宜昌にはおよそ2000戸の養豚農家があ るというが、こんな看板が必要なほど頻繁に豚が投棄されているということなのか。

点軍区で車を降り住民たちの話を聞いた。すると多くの人がこれまでに何度も豚の死骸が土手に捨てられていたり、川を流れていたりするのを見ていた。確かに私も過去に別の取材でこの付近に来た際に、たまたま川の中に膨れた豚の死骸を目撃したことを思い出した。

豚の死骸が投棄されていた場所. すでに死骸は回収されていた. 写真 2013年11月湖北省宜昌市

豚の死骸が投棄されていた場所. すでに死骸は回収されていた. 写真 2013年11月湖北省宜昌市

 

ネットに投稿された場所を探し当てると、そこは長江の河原だった。豚が捨てられていたのは、大きな石がごろごろしている河原と幅20メートルくらい の土手とが接続する辺りらしい。雑草の茂った土手は急にせり上がり、その上には道路が走っている。辺りには道路から勝手に投げ込まれたであろう生ゴミや生 活ゴミが散乱していた。豚の死骸はすでに回収され周囲は消毒されていたはずだったが、湿った草からは強烈な匂いが上がり、腐乱した動物がまだ残っているの ではないかと思われた。河原の一角で黒い塊がうごめいていた。何かと思って近づくと、大量のハエだった。

住民の話では、今走って来た道路の側溝のような形で流れているドブにもゴミ袋などに入れられた豚の死骸が度々投棄されるという。まさかと思って、探 してみると何と、中身の詰まったよう見える飼料用の袋が実際にドブの中に落ちているのを見つけてしまった。大きさは10キロの米袋くらいで、口は紐で縛ら れている。刃物でその袋の側面を割いてみると、中からは、まだ薄桃色の皮膚と銀色の毛をふさふさと残した子豚の死骸が、強い臭気とともに現れた。
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