インド、パキスタンが領有を争うカシミール地方で緊張が高まっている。8月日インドは自国が実効支配するジャンムー・カシミール州に3万5千人の治安部隊を増派し、外出禁止令を施行。通信を遮断するとともに数千人を予防拘禁した。6日には国会で自治権を認める憲法370条を削除する改正案を可決し、同州を2分割して直接統治に変えるとした。紛争当事者であるパキスタンと一部を占領する中国が、この決定に反発。両国の要請で非公開の国連安保理事会が開かれ、核保有国である印パ両国に自制を促す騒ぎとなっている。(広瀬和司・アジアプレス)

外出禁止令では、要所に治安部隊の兵士が配置され、住民が外に出ないよう厳しくチェックする。無理をすれば発砲されるので、おとなしくするしかない。(2016年インド・スリナガルにて撮影・広瀬和司)

◆州政府が巡礼者や観光客へ退去を命令

それは、突然で奇妙な出来事だった。8月2日インド支配地域カシミールであるジャンムー・カシミール州で、州政府が巡礼者や観光客に対するテロが行われる確度の高い情報があるので、すぐさま現地を出るようにと命令したのだ。現地メディアの報道によると、治安部隊がリゾートホテルの部屋一つ一つをノックして回り、荷物をまとめて、すぐさま空港に向かうよう州外から来た観光客を車に押し込んだという。

ジャンムー・カシミール州のカシミール地域南部の山間部にあるアマルナート洞窟にはシヴァリンガに酷似した氷柱がある。それを拝観しようと毎年7月から8月15日の巡礼期間にインド各地から、多い時は63万人のヒンドゥー教徒の巡礼者が訪れる。

この巡礼は90年代にインドからの分離独立のための武装闘争がピークを迎えたときも続けられ、妨害や攻撃を受けたことはなかった(2017年に起きた武装勢力による巡礼者殺害事件については不審な点が多いので割愛する)。

巡礼や観光でもたらされる地元の経済的恩恵は大きく、武装勢力は巡礼者たちを標的にしない不文律となっていた。20年近くカシミール問題に関わり、現地の報道をウォッチしている私にとって、そのテロ情報は不自然に感じた。