《長く現場にいるからわかること》
*野中 イラク戦争でマスメディアの伝え方の脆弱さが出てきたと思う。それを批判するだけじゃなくて、市民の側に立ったバランスのいい多角性が求められている。フリーも含めてそれをどうやって実現していくかをきちんと考えていかなければいけないね。
綿井君の報道で被害を受けた側、つまり殺される側の視点に立って報道するという姿勢がテレビリポートや配信される記事から出てきたと思う。米軍がバグダッドに入ってきた時、米兵に対して「今まであなた方は何人のイラク人を殺してきたのか」ということをインタビューしていたよね。

*綿井 あれは最初から用意していたわけではなく、バグダッドにずっといて、そういう心境になったんです。もし陥落後にバグダッドに入ってきたのであれば、別の質問をしたと思います。あのとき、パキスタン人の女性がたった一人で米兵に立ち向かって、「きょう何人の子供たちを殺したんだ」「病院に行って見てこい」とずっと訴えていた。

それは、極めて根源的な問いかけでした。それを脇で見ていて、ぼくもどれくらい米軍が人を殺したのかちゃんと調べなければいけないと思いました。単に目に見えるものだけが事実じゃない。世界はそんな「視覚的光景」だけが散りばめられているのではない。空爆の被害者は病院のベッドや墓場の土の中で、何も訴えることができずに横たわっている。そこへの想像力がはたらくかどうかなんです。バグダッドを後から訪れて取材した人は「空爆の被害は少ないですね」という。
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