「イスラム国」(IS)によって多数のヤズディ教徒が殺害、拉致された。(IS映像)

◆「どんな困難があっても人生は続く」

クルド人は踊りや歌が大好きだ。祝いごとがあると、音楽にあわせ踊りが始まる。男も女も小指をつなぎ、一列になって同じステップを踏む。

6年前、イラク北西部シンジャル近郊の村で、クルド系少数宗教ヤズディ教徒の結婚式に招かれたことがあった。広大な土漠に300人を超える住民が集まった。伝統の弦楽器と電子キーボードが奏でるクルドの曲に、歌手の張りのある声がスピーカーから響く。村人たちは笑顔いっぱいに踊っていた。

ヤズディ教徒の結婚式で踊る住民。この2年後ISが襲撃、多数が犠牲となった。(2012年7月・イラク シンジャルで撮影・玉本英子)

 

イラクのクルド音楽の中で重要なのが、弦楽器タンブール。その名うての弾き手として、ヤズディ住民のあいだで知られてきたのが、ハムザ・クルディ・ウーロさん(46歳)だ。去年の3月、家に呼ばれて演奏を聴く機会があった。弦を巧みに操り、喜びに沸いたり、悲しみにすすり泣くような音を響かせる。その表現力に驚いた。

弦楽器タンブール奏者のハムザさんの奏でる音が、人びとの心を魅了する。(2017年3月・イラク クルド自治区シャリアで撮影・玉本英子)

 

若い頃から売れっ子だったハムザさんは、結婚式やサロンでの演奏にひっぱりだこだった。しかし2014年8月3日、過激派組織「イスラム国」(IS)がシンジャル地域に暮らすヤズディ教徒らを襲撃する事件が起きる。1000人以上の住民が殺害され、女性や子どもの拉致も相次いだ。彼と家族は近くの山へ逃げることができたが、親戚や友人のなかには、途中でISに捕まり殺された者もいた。岩山で孤立し、一週間のあいだ炎天下のなか、水や食料もほとんどなく生死の淵をさまよった。

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