銃声
スーチーの車を、青年党員たちが腕を組み合い、三重の人間の壁をつくって守っていた。しかし、襲撃者は彼らを次々に殴打し、棒のひとつがスーチーの座る車の後部座席の窓を割り、突っこまれた。警備担当の若者たちは、口々に「アンティ・スー、ここから逃げてください」と叫んだ。しかし、スーチーは「ここにいっしょに留まります」と言った。運転手はスーチーの言葉に逆らい、アクセルを踏みこみ、その場を脱出した。

そのとき、近くの灌漑局の敷地から、2台のトラックが飛び出し、スーチーの車の方にむかってきた。スーチーの運転手は、アクセルを緩めず、そのまま真っ直ぐ進んだ。ぎりぎりのところで、相手側のトラックの運転手はハンドルを切った。スーチーの車は速度を落とすことなく、走り抜けた。しかし、灌漑局の前には有刺鉄線を張った障害物が置かれ、道を遮っていた。スーチーの車はそのまま障害物にぶつかり、それを押しのける格好で走り抜けようとした。
そのとき、命令が下された。
「撃て! 撃て!」
銃声が鳴り響いた。

灌漑局敷地内で拘束されていたナインナインは50メートルほど離れたトラックの上で、10数発の銃声を聞いた。その直後、「ティンウー拘束。スーチー逃走。必要ならば撃て」という意の連絡を軍人らしき人物がトランシーバーで行うのを聞いた。

惨禍のあと
襲撃が開始して2時間ほど経ったころ、ドー・ニュンニュンは「ミー・イェー(火・水)、ミー・イェー(火・水)」という掛け声を聞いた。襲撃者はトラックへと戻っていった。そのとき、騒ぎを聞きつけて近くの村から見に来ていた若者が駆けつけた。若者は懐中電灯を持っていた。彼女は、他の女性たちを探すよう頼んだ。車の後方部を見ると、彼女をかばってくれていたウー・チッティンがいた。口から血を吐いて倒れていた。頭からはドクドクと血があふれ出ていた。そして、前部には、車を運転していたサンミンが、運転席から崩れ落ちるように死んでいた。顔面からは左目が飛び出していた。辺りには、バイクと乗っていた若者たちが倒れ伏し動かなくなっていた。<続く>

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