人材派遣会社により違法にイラクに送られた
アンサル・アル・スンナ軍がウェブサイトを通じて、12人のネパール人を拉致したことを明らかにしたのは8月20日のことだった。

その後、12人は20日にヨルダンからイラクに入ったところを拉致されたことが明らかになったが、25日にはネパール外務省がアルジャジーラを通じて入手したビデオを公表。拉致された12人が銃を向けられながら、ネパール語で話す様子を撮影したビデオが国営・民間のテレビで放送された。

拉致された12人のほとんどが、このビデオのなかでラリトプル市にある大手人材派遣会社のムーンライト・コンサルタントにだまされてイラクに連れてこられたと訴えた。なかには、同社の仲介で、ヨルダンにあるホテルで2年間働くという約束で連れてこられたが、一月半ヨルダンにいたあと、ヨルダンにある仲介業者によりイラクに連れてこられたと話す人もいた。

ネパールに帰してくれと何度も頼んだが、無理やりイラクに連れてこられたと訴える人もいた。「これが家族に話しかける最後の機会になるだろう。お兄さん、私たちをだましたムーンライト・コンサルタントを訴えてください」と、カメラに向かって絶望的な気持ちを表す人さえいた。

ネパール政府はイラクで戦争が始まってから、イラクへの渡航を禁止しているが、ヨルダンやクェートを通じて違法にイラクにネパール人を送る人材派遣会社は後を絶たない。現在、1万5000人を超えるネパール人がイラクで労働者やセキュリティー・ガードとして働いていると言われているが、政府はその数さえ把握していない状況である。

ここ数年、ネパールではとくに若者のあいだで、海外へ出稼ぎに行く人の数が急増している。その最大の原因が、反政府武装活動を続けるマオイストにある。マオイストの影響下にある村部では、2年ほど前から、マオイストが学校の生徒や若者を武装ゲリラである人民解放軍に入隊させる動きが活発化している。

これを避ける目的もあり、仕事のないネパールにいるよりは、何年か外国に働きにいこうと考える若者が急増しているのである。大半が学歴のない村の貧しい農家の若者で、土地を売ったり、借金をして資金を作り出稼ぎに行く。こうした若者をだまして違法にイラクに送ったり、偽のビザで中東に送ったりする悪徳人材派遣会社も増えていた。

それにしても、12人のネパール人はなぜ殺害されたのか。米政府はマオイスト掃討のために、ネパールの国軍である王室ネパール軍に、武器援助をはじめとするさまざまな軍事援助をしてきた。こうした恩もあり、イラク戦争勃発後、米政府はネパール政府に対して、イラクへの派兵を要求していたが、ネパール政府はこれを拒絶しつづけていた。

犯行グループはウェブサイト上で12人の殺害の理由について、「キリスト教徒のアメリカを助け、イスラム教徒を戦うために仏教の国から来たネパール人に神の罰則を下した」としているが、全員が戦争とは何の関係もない貧しい無実の青年たちである。ネパール人には彼らがどうして殺されたのか、どうしても納得がいかないのは当然だ。

拉致が発覚したあと、ネパール政府はイラクの暫定政権やスンニ派指導者のシェーク・アハマド・アブドゥル、国際赤十字をはじめとする人権団体に、12人の解放のための協力を呼びかけた。

しかし、テレビのインタビューで労働省担当国務大臣が「政府をだまして違法にイラクに行くような人は、ネパール人といえども責任をとれない」と発言するなど、政府に真剣な対応が足りないとする批判の声が高まっていた。悪徳人材派遣会社を野放しにしていた政府の責任も重い。
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