日本の報道は、そのとき
だが、新聞紙面を見るとサマワの記事はいまも発信されている。7月中旬にはちょうど自衛隊派遣から半年ということで、各紙がサマワの自衛隊の近況を伝えている。
「陸自、酷暑と闘う サマワ59度」(読売7月15日付夕刊)

「進む復興 サマワに活気」(同7月18日付)
「"日本流"支援 高い支持」(産経7月18日付)
自衛隊派遣を全面的に支持・推進してきたこれらの新聞記事には、【サマワ発】とも【バグダッド発】とも書かれていない。「ノークレジット」記事だ。これはすべて、東京本社の記者が書いていることを意味する。

ほかの全国紙もほぼ同じで、自衛隊の活動に関する記事で【サマワ発】はゼロだった。にもかかわらず、「隊員たちからは『うわあ』といううめき声があがる」(読売新聞7月18日付)という、まるで「その場で見たかのような」記事が紙面を埋めている。写真もまた、「現場で懸命に活動する自衛隊員」の様子だが、最近のものはすべて【陸上自衛隊提供】のクレジットだ。サマワの自衛隊広報班が撮影した映像は、テレビ局のニュース番組でこれまでたびたび使用されてきた。

「安全上の理由」を盾に、ただでさえ防衛庁・自衛隊は情報を開示しようとしない。もし今後、自衛隊員が襲撃され、死者・負傷者を出す事態が起きたとき、だれが、どこから、どうやって伝えるのか。そのときも【陸上自衛隊提供】写真や映像で、「防衛庁に入った連絡によると...」「サマワからの報道によると...」という「大本営・伝聞」で伝えようとでもいうのだろうか。
(写真右:クウェートからサマワ宿営地に運ばれる自衛隊の物資は、イギリスの民間軍事会社「セキュリティフォース・インターナショナル」が車列の前後を警備している。(04年4月3日 陸上自衛隊サマワ宿営地にて)

サマワでは決して水不足による飢餓や干ばつが発生しているわけではない。問題は、水源から運ばれるはずの水道管や上下水道設備が、特に地方の村を中心に行き渡っていないことにある。したがって、給水そのものは民間のマンパワーの増量と資金援助で十分に対応できる。

自衛隊の「給水補助活動」は対症療法に過ぎず、サマワのインフラ整備の根本的な解決にはつながらない。道路・建物補修は極めて小規模な活動で、サマワに大規模な雇用を創出するような貢献ではない。一方、サマワに自衛隊が駐留することで、本来平和な街に「治安の悪化」を逆におびき寄せている。

そして、自らおびき寄せたその治安の悪化に対して、宿営地の安全対策の強化と整備で精一杯というのが自衛隊の実情だ。
日本が本当にいまイラクですべきこととは、自衛隊が宿営地の中で作り出す「おいしい水」を配ることなのだろうか。

「なし崩し派遣」の果て、「唐突に」多国籍軍に参加させられた自衛隊の存在感も、そもそもの存在意義もサマワで見出すことはできなかった。サマワ市民の過剰な期待と幻想が、いましだいに失望に変わりつつある。
危険な兆候だ。

昨年四月のバグダッド陥落後の米軍、八月から米軍に代わってサマワに駐留したオランダ軍も、住民から当初は同じような受け止め方をされ、後に徐々に期待も信頼も崩れていった。
現実のサマワには、自衛隊がもたらしたという復興も活気もない。現状を見ると、「自己完結型軍隊組織」の自衛隊が示す限界と悪影響だけが、この半年間で地元に定着した。そして、自衛隊員の「自己満足と思い込み」の一方で、サマワ住民の「幻想と誤解」がさらに促進されただけのように見える。

それが「日本人への敵意と不信感」に変わる前に、自衛隊員はもちろん、さらなる日本人の死者が出る前に、自衛隊の派遣そのものを見直す時期にさしかかったのではないのだろうか。
(おわり)

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